こちらは働きながら臨床研究をやりたい先生や、大学院進学予定、または進学したばかりの先生方からたびたび頂く、「こういうときに読む本を教えて欲しい!」というご質問に対して、お勧めの本を挙げるコーナーです。
昨今は臨床研究に関する本も豊富になり、日本語でも勉強しやすくなりました。
とはいえその難易度はまちまちで、意気込んで買ってみたはいいけれど、読んでみたものの結局よくわからなかった…なんてのもあるあるです。
そんなわけで、当記事では初心者向けのブログらしく、「平易な言葉で気楽に読める」本だけに絞って、公衆衛生・臨床研究系大学院生の皆さんの疑問にお答えするQ&A方式でご紹介していきます。
ざっくり「臨床研究をやる前に読みたい本」「臨床研究のやり方の本」「論文の精読のやり方の本」「医療統計学の本」に分けています。
参考になれば幸いです。
臨床研究をやる前に読みたい本
大学院入学に読んでおきたい、臨床研究のイメージを掴んだり、論文が読めるようになるための本を挙げます。
実臨床の現場でも役立つような本を厳選しました。
臨床研究に関わらない医療従事者の方にも是非読んでほしい、必読書と呼んでも過言ではない本達です。
Q. まず臨床研究が何をしているのか知りたいなら?
A.
「これが臨床研究に関するオススメの本?」と訝しむ声が聞こえてきそうです。
お察しの通り、こちらは研究者向けどころか医療者向けですらなく、一般の方向けの本です。
しかしこの本では、臨床研究を学ぶ上で一番重要な要素である「因果関係」について非常に丁寧に解説されています。
「因果関係」と「相関関係」の違いを理解することは臨床研究の根幹ですが、日本では大学までの教育で習うことはほとんどないため、なんとなく感覚では理解していても、上手く言語化できないという人が多いと思います。
皆様も、テレビや通販でよく見かける「○○には△△が効く!!」「□□をやる人は××になる!」みたいな話に、「コレうさんくさいな……」と感じたという経験があると思います。
実は論文でも、似たような論調のものをときどき見かけます。
しかし、そのどこに明確な間違いがあるのか、きちんと反論できるでしょうか?
そして質の低い論文と高い論文を見分けられるでしょうか?
この本を読めば、因果関係がないのにあるように書いてある論文に対して論理的に反論ができるようになります。
「因果関係」と「相関関係」の違いが理解できるようになったら、それだけであなたの視点は、臨床研究者のそれに変わっています。
そして臨床研究に出てくるやたらと難しい統計解析のほとんどは、正しい「因果関係」を推測するため編み出されたものだということも理解できるようになるでしょう。
Q. 論文の読み方のお作法を知りたいなら?
A.
臨床研究者になると読みまくる必要がある医学論文。
この本は、医学臨床研究論文の読み方を臨床医目線に立って非常にわかりやすく解説しており、研究者になる前の論文の読み方の入門書として最適です。
作者の後藤先生は、優秀な研究者であると同時に臨床の現場で働く救急医です。
そのためこの本には、臨床現場の医師にとっての論文とはどのような立ち位置で、どのように解釈すれば良いのかが書かれています。
その臨床と研究に対するバランス感覚の良さは、アカデミックな場で論文を読むときだけでなく、臨床現場でのEBMの実践にも大いに役立ちます。
臨床研究のやり方の本
次に、実際に臨床研究をやるにあたり、参考になる必読書を挙げていきます。
Q. 臨床研究をやる前に絶対読むべき本は?
A.
臨床研究の計画を練るなら、まず読むべき一冊は間違いなくこちらです。
この本は、大筋が軽快な会話劇で進むため、これまで接する機会の少なかった臨床研究のハウツーが、スルッと頭の中に入ってきます。
臨床研究=統計解析と思っている方も多いですが(かくいう私も大学院を目指す前まではそう思っていました)、臨床研究は解析手法よりも、いかにその計画やデザインそのものが大事であるか、ということを学べる本です。
この本を読み終えたあかつきには、日本全国で見かける「とりあえずデータを集めてから、どんな研究をするか考える」というスタンスで行う研究がいかに不毛かを知ることになるでしょう。
大学院に進むからには、いきなり研究に取り組み始める前に、是非この本を読んでみることをオススメします。
Q. 診断法の研究や予測スコアを作るなら?
A.
診断スコアや予後予測など、診断法の研究をしたり予測モデルの概要を掴みたいなら、いちばん簡単な入門書としてはこちらがオススメです。
これを読めば、診断スコアや予後予測の論文の意味がすっきりと理解できるようにはなると思います。
自分で予測モデルの研究論文が書きたい方は、さらに次の本も読むと良いでしょう。
Q. 更に詳しく予測モデルについて学ぶなら?
A.
これだけは日本語の本でなくて恐縮ですが、質問を受けたので追加しておきます。
予測モデル研究をする人が皆、口を揃えて参考にしたというのがこの本です。
実は私はまだ予測モデル研究をやったことがないため、この本を通読できていないのですが、早めに読み切りたいと思っています。
私が持っているのはPDF版ですが、カラーで図や表も多く、あまり難解な数学も出てこないため読みやすいです。
実際の解析コードまで載せてくれている親切設計です。
なおこの本は、一部の大学図書館では無料でPDFをダウンロードできることがあります。
大学に籍のある方は、購入前に一度大学図書館の蔵書検索で確認してみることをオススメいたします。
論文の精読のやり方の本
この世に数え切れないほど存在する論文を読むときに、その良い点や限界点を知り、論文の内容を解釈するやり方について学べる本をご紹介します。
ある論文の内容を目の前の患者さんに適用する前に考えるべきことを学ぶことは、臨床医としても一生役立ちます。
Q. 論文の批判的吟味の方法を学ぶなら?
A.
論文の精読の仕方、つまり批判的吟味のやり方を網羅的に学べる本です。
かなり平易な言葉で書かれているので非常に分かりやすく、正直、臨床研究者だけでなく、医療情報に携わるすべての人に通読して欲しいほどの良書です。
本書を読めば、多くの医療者が誤解している、EBMの本質が理解できるようになるかと思います。
実臨床で、目の前の患者さんに対してのエビデンスの調べ方や、検索した論文の評価の仕方、患者さんへの適用の仕方、つまり医療情報の実践的な活用方法が学べます。
この本は、真の意味でEBMを理解・実践するには欠かせません。
また本書には、文献検索やEBM実践の際に使えるサイトもたくさん載っており、その部分でも何度助けられたかわかりません。
なかなかのページ数ですが、臨床研究者ならば全部読んで損はないと断言できる数少ない本の一つです。
医療統計学の本
Q. 医療統計の正しい基礎を手軽に学びたいなら?
A.
地球を征服しにやってきた”宇宙怪人しまりす”と統計学者の”先生”の2人のボケツッコミの掛け合いとともに、医療統計の超基礎を一から学べる本の第一弾です。
例えば薬の効き目を調べるために、薬をのんだ場合とのまなかった場合を”比較する”とはどういうことなのか?など、一目瞭然に見えて、実は間違って理解している人がほとんどである比較の仕方について、正しく知ることができます。
実は初心者向けの統計学の本は、一見正しいようだけど微妙に間違った記述があることも多く、そのような本で勉強をすると、最初は良くても将来的に苦労する羽目になります。
そのため、一生役に立つ統計知識の土台を築くには、文章が分かりやすく、かつ内容が学術的に正しい本を選ぶことが肝心です。
その点、本書の著者の京都大学の臨床統計の教授である佐藤先生は、世界的にも有名な医療統計学者であり、臨床研究初心者の学生相手にも妥協なく正しい知識を教える教育のエキスパートです。
正しい知識を身につけるのに、この本はうってつけというわけです。
なお、最近中外製薬とのコラボで全6話のyoutube動画にもなったので、どんな内容か気になる方は、まずはそちらを見るのも良いと思います。
それにしてもコロナ禍以降、youtubeには良い学びのコンテンツが急速に増えましたね~。
なお、この本を読み終わったら、このシリーズ第二弾の「宇宙怪人しまりす 医療統計を学ぶ 検定の巻」も続けて読むことをオススメします。
まとめ
以上、臨床研究超初心者向けの本をご紹介しました。
大学院に進学して強く実感しましたが、臨床研究は、最初に正しい知識を身につけられたか否かで、その後一生素晴らしい研究ができるのか、必死に頑張っても「役立たない研究」と言われてしまうのかが決まるという残酷な現実があります。
皆様は是非臨床研究の正しい基礎を身に着けて、医学を学問として前進させる一員となって下さい!
臨床研究に興味を持った皆様のお役に立てば嬉しいです。