【完全解説】どんな重症患者もワンパターンで診られる方法

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この記事では、重症患者さんの診かたをお伝えします。
重症患者さんの初期診療には、実はオリジナリティは全く不要です。
完全にワンパターン(ABCDEアプローチ)で対応できます

突然ですが皆様、重症患者さんの診療はお好きですか?
お嫌い? だって怖いから? はい、それが普通です。
えっ お好き? 奇特な方ですね……救急科への入局をお待ちしております。

それでは現在救急医である筆者はというと……もちろん、大っっっっっ嫌い!……でした。
研修医時代は、重症患者さんにどうやって対応して良いのか分からず、診療が怖くてたまりませんでした。

そのため救急外来で当直をするときは、やる気のみなぎる他の研修医達が上籍医と重症患者さんを診ているのを尻目に、ちまちまと軽症患者さんの診療ばかりしていました。
(当直の研修医がたくさんいたからできたことですが……お願いですので、皆様は真似しないでくださいね。)

しかし3次救命センターでの研修を経た今では、重症患者さんが来院すると聞くと、テンションを上げて処置室にすっ飛んでいくようになりました。
重症患者さんの診療に携わることの怖さがなくなったわけではありません。

しかし、重症患者さんの診療は、
①最初の15(~30)分が勝負で、診療開始時はとにかく誰でもいいから人手が必要なこと
②重症の診療自体はワンパターンで、どんな症例でも最初にやることは決まっていること
を知り、よっしゃ手助けするぞ!という意識を持てるようになりました。


本記事は、

  • 重症患者さんの診かたが分からない、診療が怖い
  • 自分が診療におけるメインの医師となって重症患者さんを診療したい
  • できるだけ労力少なく、シンプルに重症患者さんを診療できるようになりたい
  • ERに自分一人しかいないときに、専門医が来るまでの時間稼ぎができるようになりたい

そんな方たちのための記事になっています。

一つでも当てはまった方も、一つも当てはまらなかった方も、読んで損のない内容だと思います。
ER型救急医が、普段大好きな問診を一旦かなぐり捨てて、スピード優先で行うワンパターン診療のリアルなノウハウをお伝えしますので、ぜひお楽しみください。

重症患者さんの診療は本当にシンプルです。やることは以下の3つだけ。

  1. 大声で助けを呼ぶ
  2. まず、心停止かどうかを確認する
  3. ABCDEアプローチで患者さんを診察、治療介入を行う

なお、実際の臨床現場では、患者さんやご家族の治療に対する希望は非常に重要です。
現在の病状を鑑みながらにはなりますが、癌や慢性疾患の末期の状態などでアドバンス・ケア・プランニング(ACP)がある場合は、そちらを優先する必要があります。

また本記事は、1~数名の医師(特に研修医や非専門医)が軽症も中等症も来るような1次2次中心の一般的な救急外来で診療をしているときに、突然重症患者さんに遭遇した場合を想定しています。

多数の救急医が常駐しているような3次救急専門の救命センターや、処置ベッドにCTまでついているようなハイブリッドERでは、よりアドバンスドなことを行います。
そのため若干違う部分はありますが、それでも基礎となる考え方は同じです。

それでは、さっそく見ていきましょう。

目次

大声で助けを呼ぶ

重症そうな患者さん、すなわち全身状態不良またはバイタルサイン異常の患者さんを見つけた時にいちばん大事なことは、それを大きな声で上籍医と医療スタッフに伝えることです。

これをするのとしないのとで、患者さんの予後が大きく変わります。
「そこまで大げさにしなくてもいいんじゃないかな……」とか、「この程度も診られないと思われたら恥ずかしい……」というちょっとした医師や医療従事者の虚栄心によって、ときに患者さんの生きるか死ぬかが変わるのです。

世間では「聞くは一時の恥、聞かぬは一生の恥」なんて言いますが、診療の手伝いをお願いして少し恥ずかしいのは自分ですが、声をかけなかったために一生を捨てるのは自分ではなく患者さんです。肝に銘じましょう。

大声で応援を呼ぼう

大声で周囲に重症な患者さんがいることを伝えたら(あるいはERに自分しかいない場合は上籍医に電話連絡をしたら)、その患者さんを、救急外来で一番医療処置のしやすいベッド(たいていの病院では「処置ベッド」と呼ばれている)に寝かせましょう。

救急車ではなく、自分で歩いてきた(walk-inでの)受診の場合、そこまで大げさにしていいのかな……と少し躊躇する気持ちが生じることもありますが、必ず処置のしやすさを優先してください。
バイタルサインが完全に悪化してから患者さんを移動するのは、大きなタイムロスになり、患者さんに危険な橋を渡らせることになります。

ER型救急医は普段、問診を非常に重要視しています。しかし、重症患者さんを見る時は話が別です。
一番最初に患者さんを診る医師には、丁寧な問診をしている暇などありません!
主訴と発症時刻だけ聞いたら、詳細な病歴聴取は後回しにして、患者さんの全身状態の評価と治療介入を行います

このとき患者に関わる医師が3人以上いるなど余裕がある状況ならば、うち1人に、患者の付き添いの人などのところに行ってもらい、病歴を聞いてもらいましょう。

なお、体感としては、重症患者さん1人に対して最大限の医療を投入して救うには、計4人の医師が必要だと感じています。
その内訳は、患者さんの傍で処置をする医師が最低でも3人+病歴聴取や家族対応に1人です。

とはいえ1人当直などのときには、可能であれば待機者を自宅から呼び出すにせよ、その場に集められるだけの人員でやるしかありません。

もちろん医師だけがたくさん必要なわけではなく、看護師さんや検査技師さんなど、多数の医療従事者の手助けが必須です。
重症患者さんの診療が決まった時点で、集中治療室(ICU入室の可能性)や放射線科技師さん(ポータブルレントゲンやCT)、輸血部(異型輸血の可能性)など、準備が必要で律速段階になりがちな部署に電話連絡をしておくことが望ましいです。


それでは診療をはじめましょう。
まず診療に当たる前に、患者さんを直接診療する医療従事者の感染防御「スタンダードプリコーション」を行います。

もし、あなたが患者さんをメインで診療するのであれば、人手が許せば、上籍医などに指導者(「コマンダー」と呼びます)として一歩離れたところに立ってもらう必要があります
なぜなら患者の評価や手技などをやっていると、視野が狭くなり、全体を俯瞰することはできなくなるからです。

これは超優秀な救急医や集中治療医でも例外はなく、むしろ優秀なドクターほど、処置中には自分の視野が狭窄するリスクを自覚しています。
そのため救命センターの救急科のドクターたちは、自分が今「患者をメインで診る役割」をするのか、あるいは「コマンダーの位置からER全体を指揮しコントロールする役割」を担っているのかを決めてから、重症患者の診療に臨んでいます。

この記事を読んでいる方の多くは、コマンダーになるよりも先に、重症患者さんを実際に診療できるようになりたい人だと思います。
今回は、あなたが患者をメインで診る役割になったときの、重症患者さんの対応を学んでいきましょう。

以下の患者さんの評価と、これから行う治療介入は、ひとつひとつ大きな声で言い、診療に携わる医療従事者に情報を共有することが大事です。
これ、皆様のまわりでもやらない人が多いかと思いますが、やるのとやらないのとでは大違いです。

どれだけ優秀な医療従事者が集まっても、今、どんな病状に対して何が行われているのかが分からなければ、それは烏合の衆と化します。
特に外回りの看護師さんや医師は、次にやることを先回りして準備する必要があり、状況の把握ができなければ、適切に動くことができません

実際、重症患者さんの診療が中心の多くの救命救急センターでは、ごく自然に行われています。
所見をひとつひとつ口に出すのは、慣れるまでは結構恥ずかしいと思いますが、患者さんを救うためには大変重要なことです。

患者さんの所見を「見て」「聞いて」「喋ろう」

第一印象+まず、心停止かどうかを把握する

患者さんの全身状態を簡単に把握します。これを第一印象と言います。
あなたが患者さんに接触したら、橈骨を触れながら患者さんに話しかけ(脈の強さ・速さ、末梢の冷感湿潤、気道の開通、意識レベルが大まかに分かる)、簡単に主訴と発症時刻などを把握します。

このシンプルなやり方で、今から診察する患者さんが重症っぽそうかどうかを大まかに判断できます。

橈骨が触れない場合は頸動脈を触わり、頸動脈を触知できなければ、それは心肺停止です!
すぐさま蘇生を開始します。
胸骨圧迫と人工呼吸、モニターをつなぎ、除細動可能な心電図波形であれば、除細動を行いましょう。

なお、第一印象の段階で、気の利く誰かがモニターをつけてくれていてくれる場合があります。
しかしそのモニターが正しい心電図波形を表示していたとしても、頸動脈を触知できなければ、それは無脈性電気活動(PEA)です
すぐさま胸骨圧迫と人工呼吸を行い、蘇生を開始します。

このPEAに、意外と足元を掬われることがあります。
恐ろしいことに、「院内で心停止したのに、急変に気づいて集まった医療従事者達がモニターだけを見て誰も頸動脈に触れず、誰ひとり心停止に気づかず患者さんが蘇生されなかった……」という嘘のような症例は本当に存在します。

まずは心停止を把握し、蘇生する!

重症患者さんの診療を開始する

まず診療を始める前に心構えをひとつ。
重症患者さんの診療中は、他の先生にきちんと引き継がない限りは、あなたは絶対患者さんから離れてはいけません
基本的には、常に患者さんの頭元にいて、患者さんに変化がないか観察し続けましょう

たとえ自分が研修医でも、一旦診はじめた患者さんには、医師としての責任を持ちましょう
ほんの一瞬目を話した隙にこそ、患者さんは急変するものです。
(特に静かにショックに陥っていたりするほか、「仰向けで嘔吐して窒息」というインシデントが意外に多いです。
患者さんの表情などを観察しておき、えづくなど吐きそうなそぶりをわずかでも見せたら、すぐさま顔と身体を横に向け、嘔吐したときの窒息を未然に防ぐようにしましょう。)

重症患者さんの診療中は、患者さんから離れられないだけではありません。
それどころか多くの場合、その場でカルテ記載をする時間すらありません。
そのため、採血や輸液などのオーダー係が1人必要になります(コマンダーと兼任でもOKです)。

1人当直のときなど、オーダー係をつくることができないようであれば、可能であれば応援を呼びながら、先に患者さんのABCDE評価と異常所見への治療介入を優先しましょう。
ABCDE評価や異常所見へ介入で必要な物品のほとんどは、ERに常備してあるものです。オーダーなしでもある程度までは戦えます。

全身状態やバイタルがある程度安定化してから、最低限の検査項目のオーダーを済ませ、蘇生や検査による評価を続けます。
カルテは綺麗に書けたけど、患者さんは残念ながら……なんて事態だけは避けましょう。

普段の診療の流れで、患者さんの診察をして取った所見を、その場でカルテに記載をしたいという研修医の先生が結構います。
実際に、研修医の先生から「救急外来診療ではカルテも書かなきゃいけないのに、重症患者さんの場合、同時に診察や処置までやらなきゃいけないなんて、することが多すぎて無理です!」という相談を頂いたことが何度かあります。

気持ちはものすごーく分かるのですが、まずはカルテ記載を一時的に諦めましょう
それはひとりの人の命と天秤にかけられるものではありません。

重症患者さんを診療する場合、先にやるべきは診察や処置です。
詳細なカルテ記載は後回しにして構いません。
患者さんの状態が安定化してから、後でまとめて記載しましょう。

詳細なカルテ記載は患者さんが落ち着いてからやろう


心配しなくても、重症患者さんの診療はワンパターンな上に、異常があったらその場ですぐさま治療介入をしないといけないので、診察所見や治療の大きな流れを忘れることはそうありません

しかし、処置を行った時間までを正確に記憶しておくことがさすがに難しいのは事実です。
その場でまだ人数が確保できているスタッフ(多くの場合看護師さんや、ときに見学の医学・看護学生さん)がいる場合は、タイムキーパー(時間と行った処置を記載する係)を依頼しておきましょう。

重症患者さんのワンパターン診療(ABCDEアプローチ)

重症患者さんの診療に、オリジナリティは全く必要ありません。
ごくごくシンプルに、患者さんのバイタルサインをABCDEの順に評価していき、異常を見つけたら、それに対する介入(根本治療ができればよいですが、多くは対症療養的なサポートによる全身状態の安定化)をその場でしていくだけです。

これをABCDEアプローチと呼びます。
ABCDEの評価とは、以下の略のことです。

A Airway(気道
B Breathing(呼吸
C Circulation(循環
D Dysfunction of central nervous system(意識障害
E Exposure and environmental control(体温など環境管理

患者さんをメインで診察する人は、必ずA→B→C→D→Eの順に診療を進めます。
Aの介入中にBも評価する、Bの介入中にCも評価するなどは問題ありません。しかし決して診る順番そのものを入れ替えてはいけません!


たとえば、AとBの異常がある場合(例1)で考えてみましょう。
Aの異常がある(窒息している)状態で、気道を確保せずに、Bの異常の治療(酸素投与)をしても、根本解決にはなりません。

例1 「A」と「B」の異常がある場合

○ A→Bの順で評価
  ①Aの異常がある(喉が詰まってゴロゴロいっている)
   →まず気道を確保
  ②Bの異常がある(SpO2の低下)
   →酸素投与→確保された気道を通って酸素が肺へ

× B→Aの順で評価
  ①Bの異常がある(SpO2の低下)
   →まず酸素投与→気道が詰まっているので効果がない
  ②Aの異常がある(喉が詰まってゴロゴロいっている)
   →気道が確保されてから酸素投与の効果が出る


あるいは、CとDの異常がある場合(例2)
Cの異常がある(ショックの)患者さんに、ショックの原因検索(特にタンポナーデの解除など)や体液量評価や輸液などを行わずに、Dの詳細な評価(頭部CT)だけを施行しても、正しい判断は難しいです。
Cの異常(ショック)による意識障害の可能性があり、CTを撮影しても頭蓋内には異常が見つからないことも多いからです。

また、CT台の上で患者さんが急変してしまい、取り返しのつかないことになる可能性もあります。

なお、Cの評価が終わって輸液などの治療介入中(効果が出るのを待っている間)に、意識レベルの確認などのDの暫定評価をすることはもちろんOKです。

例2 「C」と「D」の異常がある場合

○ C→Dの順で評価
  ①Cの異常がある(ショック)
   →ショックの原因治療・輸液→ショックと意識状態の改善
  ②Dの異常がある(意識障害の正確な評価)
   →CT検査(頭蓋内の評価)

× D→Cの順で評価
  ①Dの異常がある(意識障害?)
   →CT検査(頭蓋内の評価)→CT台の上で患者さんが急変!
  ②Cの異常がある(ショック)
   →ショックの原因治療・輸液→意識状態の改善→Dの再評価が必要
  


処置ができる医師が1人しかいない場合は、必ずA→B→C→D→Eの順に診療を進めてください
処置をできる医療スタッフが2人以上いる場合は、時間が惜しいので、Aを評価中に他の評価や介入(たとえば、SpO2モニターを付ける、ルートを確保する、エコーをするなど)を同時にしても全く問題ありません。

人手がある場合、これらのABCDE評価と介入処置を同時にやることももちろんあります。
しかし、患者さんをメインで診ているあなたは、必ずA→B→C→D→Eの順に診療を進めて下さい。

患者さんをメインで見ている人の中でこの評価の順番が入れ替わると、重要な評価を誤ったり、思わぬトラブルで患者さんを命の危険に晒すことがあることを肝に銘じましょう。

また、患者さんの容態が変わったときや、画像検査などのために患者さんを移動したときは、ABCDEのどこまで評価をしていたとしても、必ず頭のAに戻って、ABCDEの順に再評価をすることが重要です!
(特に挿管チューブや人工呼吸器、カテコラミンなどの点滴が外れるなどのトラブルに注意です。
 もちろん、これらの重要な機器は外れないように細心の注意を払って患者さんを移動させることが最重要ですが……)

キーワードは「困ったときは、ABCDEに戻る」です!

キーワード「困ったときは、ABCDEに戻る」

よりアドバンスドな内容として、患者さんのABCDE評価同時に、患者さんの「病態生理」と「鑑別疾患」を考えて、それに対する介入をすることが救命の鍵となります。
(が、これは経験がないうちはなかなかに難しく、上籍医先生方の協力を仰ぎましょう……)


それでは、現場で誰にでもすぐに使えるABCDEアプローチの方法を、一つずつ見ていきましょう。

Aの評価:「気道は開通しているか?」

まずはAの評価として、「気道は開通しているか?」を一番最初に確認します。
患者さんに話しかけて、普通に会話ができていれば、ひとまず気道は開通していると考えてOKです。

会話ができれば、気道はひとまずOK!

口の中に唾液や血液などのたれ込みがあれば最初に吸引を、イビキ音が聞こえるなどの舌根沈下を疑う所見があれば下顎挙上をします。
下顎挙上は、両顎に指を引っ掛け顎をしゃくれさせるように上に持ち上げ、下顎を上げることで、喉の奥にある気道の通りを良くします。
(志村けん氏のアイ~ンのような感じ、と言って、今の若い世代に伝わります……?)

意識状態の悪い患者さんの上気道閉塞には、経鼻エアウェイの挿入も役立ちます。
(ただし頭蓋底骨折が疑われる患者さんでは、経鼻エアウェイが頭蓋円蓋部に迷入するリスクがあるのでNGです。)
また気道内に異物がある場合は除去が優先です。

下顎挙上をしてもイビキ音が聞こえるなど、効果が少なければ、次はバッグバルブマスク換気ができるか確認します。
バッグバルブマスク換気すらできないようであれば、挿管や必要に応じて輪状甲状靭帯穿刺・輪状甲状靭帯切開を行います。
(輪状甲状靭帯石灰は、気管切開とは処置をする場所が違い、所要時間が非常に早いのが利点です。)

なお、マスク換気ができる場合は、慌てて挿管する必要はなく、そのまま次の評価に行ってOKです。
無理に先に挿管しようとすると、患者さんの予後はむしろ悪くなります。

挿管した場合は、まず5点聴診(先に心窩部の胃泡音+左右の前胸部と側胸部を聴診)するほか、EtCO2モニターで換気ができていることを確認しましょう。
さらには、その後胃管を入れてからで構いませんが、レントゲンで挿管チューブと胃管の先端が正しい位置にあるのかを確認する必要があります。

A(気道)の評価と治療介入の順
  1. 会話(主訴や発症時刻を尋ねる)
  2. (たれ込みがあれば)吸引、(舌根沈下を疑えば)下顎挙上・経鼻エアウェイ、(気道内異物があれば)除去
  3. (②でもダメなら)バッグバルブマスク換気
  4. (③でもダメなら)挿管や輪状甲状靭帯穿刺・輪状甲状靭帯切開

Bの評価:「呼吸はできているか?」

Bの評価としては、最初に、「SpO2低下がないか? 努力呼吸はしていないか? 呼吸数は正常か? 胸郭挙上の左右差がないか? 呼吸音の左右差がないか?」 の5つを確認します。
また、重症だとわかった段階で、ポータブル胸部レントゲンの技師さんにも電話などで連絡しておきましょう。

SpO2の基準値は患者さんの病態によるので意見が分かれるところですが、少なくとも、SpO2が94%以下くらいだったり、末梢の冷感などでうまくSpO2が測れない場合は、ひとまずは異常と捉えて良いと思います。

胸郭の挙上の所見は、頭側または足側に立ち、患者さんの胸の高さに自分の目線を合わせると確認しやすくなります。

呼吸音の左右差は、両側胸部で聴診をするのが分かりやすいです。
このときにwheezeやcrackleも一緒に確認できるとベターです。
呼吸音が片方しか聞こえない場合は、気胸や大量の胸水、下気道の閉塞などを疑います。

呼吸補助筋を使用した呼吸、すなわち努力呼吸も、呼吸不全の徴候のひとつです。
努力呼吸には、鼻翼呼吸(呼吸不全)やシーソー呼吸(不全下気道閉塞、気道狭窄)、陥没呼吸(上気道閉塞)、口すぼめ呼吸(COPD、喘息)などがあります。

これら呼吸の所見に異常あれば(特にSpO2が低下しているときは)酸素需要が高いと判断し、まずは酸素投与を行います。
病態によりますが、SpO2の著しい低下がある場合は、最初はリザーバー付きマスクで10L以上の酸素投与など、全力投与をして構いません。
(酸素の投与量が多すぎたら、後から減量して調整すればOKです。)

あるいは何の病歴情報もない重症そうな患者さん(特に外傷患者さん)で判断に迷ったときは、SpO2に関わらずとりあえず酸素投与を開始するという手もアリです。
今後さらに病態が悪化し呼吸が止まったときなどに、少しでも酸素化ができているのとできていないのとでは、挿管や人工呼吸までの時間的猶予が大きく違います。

酸素投与でもSpO2が上昇しなければ、バッグバルブマスク換気をして、SpO2が上がるかを確認します。
自発呼吸がある場合は、吸気に合わせてバッグをもみましょう(自発呼吸への補助換気)
Aの評価と治療介入のときと同様に、バッグバルブマスク換気だけでSpO2を維持できているのであれば、挿管は後回しで問題ありません。

ここから少しだけ疾患特異的な話をします。
胸部外傷の場合や、痩せ型の患者(COPD体型を含む)などで、緊張性気胸が疑われる場合は緊急脱気が必要になります。
気胸の診断には、身体所見(胸部を触診したときの握雪感)やレントゲンが役に立ちます。

緊張性気胸が疑われた場合は、緊急脱気のため、胸腔穿刺、胸腔ドレーン留置を行います。
(重症外傷による緊張性気胸を疑うときなど、血行動態が不安定で一刻を争う場合は、確定診断のためのレントゲンを撮る時間的な余裕がありません。
この場合、身体所見のみから判断し、診断的治療として胸腔ドレーンを留置します。)

また、意識のしっかりした患者さんで、ご本人の協力が得られる場合は、病状によっては挿管以外の呼吸補助手段も存在します。
例えば心不全には非侵襲的陽圧換気(Non-invasive Positive Pressure Ventilation Ventilation: NPPV)が良い適応となります。
間質性肺炎の急性増悪などの、二酸化炭素増加を伴わないⅠ型呼吸不全(動脈血ガスでPaO2 <60mmHg、かつPaCO2<45mmHg)には、ネーザルハイフロー(Nasal High Flow、またはHigh Flow Nasal Cannula:HFNC)を使うこともあります。

これらは挿管ほど確実で安定した手段ではなく、特に上気道閉塞が起こる可能性がある場合など禁忌もあります。
慣れるまでは、使用するかどうかは上籍医か各科専門医と相談しましょう。

B(呼吸)の評価と治療介入の順
  1. SpO2の確認(異常の目安:SpO2≦94%)、努力呼吸の有無と呼吸数の確認
  2. 胸郭挙上の左右差、呼吸音の左右差(+wheezeやcrackle)
  3. (①、②に異常があれば)酸素投与
  4. (③で改善しなければ)バッグバルブマスク換気
  5. (④で改善しなければ)挿管や輪状甲状靭帯穿刺・輪状甲状靭帯切開
    (意識があれば病状に応じて、NPPVやネーザルハイフローも検討)
  6. ポータブルレントゲン撮影(早めに技師さんを呼んでおいて、準備ができたタイミングで撮る)

 +αとして、気胸に気をつけよう!

Cの評価:「ショック徴候はないか?」

次にCの評価です。
ショックの徴候を確認するため、まずは橈骨を触知しながら、血圧の低下や脈拍の異常はないか? 四肢末梢や体幹の皮膚のチアノーゼや冷感湿潤(冷汗)はないか?を診ます。

橈骨触知では、脈の強さや早さ、リズムを評価することができます。
橈骨が触れない場合は、頸動脈も触知しましょう。
頸動脈も触れなければ、それは心停止です! 蘇生を開始してください!)

バイタルサインは病態により大きく異なりますが、目安として、以下のようなときはひとまずショックを疑いましょう。

Cの異常:ショックを疑うバイタルサインの例
  • 収縮期血圧<90mmHg
  • 収縮期血圧が普段よりも30mmHg以上低い
  • 脈拍>100回/分(たとえ血圧が普段通りでも)
  • 脈拍<40回/分

循環動態の評価には、Capillary refill time(CRT)も有用です。
CRTは爪床を5秒間圧迫して解除後、爪床の赤みが回復するまでの時間で、2秒以上かかる場合は循環に問題があると判断します。

これらの所見でショック徴候があれば、細胞外液(乳酸リンゲル液など、商品名:ヴィーンF、ラクテックなど)の投与を行いましょう。

輸液路(ルート)は、できるだけ太い針で、2箇所は確保する必要があります。
静脈ルートがなかなか取れない場合は、脛骨近位部などでの骨髄輸液が便利ですので、使い方を勉強しておきましょう。
ルート確保時には、採血もしましょう。

ショックの正体は、重要臓器への血流が維持できなり組織内に低酸素状態が生じたことによる、細胞の代謝障害や臓器障害です。
血液ガスでのLac>4mmol/L(>36mg/dL)は、重度の細胞内の嫌気性代謝(組織低酸素状態=ショック)を反映しており、ショックの評価にとても有用です。

輸液(細胞外液)は病態によって投与できる量は違い、状況によっては大量輸液よりもカテコラミン投与の方が必要なこともあります。
特に心疾患が原因の場合や心機能が低い患者では、大量に輸液すると心不全を誘発するので慎重にする必要があります。

しかし初期診療時には、大抵の病態で多少の血管内脱水は生じており、血行動態を少しでも安定化させるため、一時的な細胞外液の急速輸液を行うことは許容されると思います。

循環動態の評価や治療のために、Aライン中心静脈カテーテル(CV)を入れたりすることもあります。

便利なエコーを活用しよう


さて、輸液(やカテコラミン投与)に反応して循環動態(バイタルサインで評価)が改善するかを見ている間に、ショックを起こした原因の検索が必要です。

Cの評価で便利なのは、なんと言ってもエコーです。

エコー所見では、下大静脈IVCの虚脱(脱水)、心臓の壁運動や左室駆出率EF(心機能)、右室負荷所見(肺うっ血)、FASTによる心嚢液・腹水貯留の有無(心タンポナーデや出血、腹腔内臓器疾患など、分かることが山程あります。
余裕があれば感染検索で胆嚢炎や水腎症(閉塞性腎盂腎炎)の有無、大動脈解離や大動脈瘤瘤検索、肺野エコーで気胸やB-lineの有無なども評価したいところです。

救急外来のエコーで簡単に見ることができる所見については、こちら記事後半の検査に関する項目でもまとめています。

しかし正直なところ、エコーの所見は、実際に自分の目で動いているところを見ないことにはイメージがつかめません
そのため日頃のトレーニングが大事になります。
またYouTubeには綺麗なエコー動画がたくさん転がっているので、気になるものがあったら見てみると良いでしょう。

早めに心電図をとろう

また、Cの評価で見逃してはいけないもののひとつが、心筋梗塞(による心不全のクリニカルシナリオ4)と不整脈です。心電図で評価しましょう。

心筋梗塞の場合は心臓カテーテル検査が根本治療となりますし、不整脈であれば除細動やペーシングが必要となる可能性があります。
心筋梗塞以外が原因の心不全が疑われる場合で、意識障害がなければ、非侵襲的陽圧換気(Noninvasive Positive Pressure Ventilation: NPPV)の使用を検討できます。

適応の判断が難しければ、循環器科の専門医の先生と一緒に診療するのが望ましいでしょう。


ショックの原因が何であれ、ほとんどの場合、根本治療には専門科医師の高度な介入が必要となります。
その疾患が疑われた時点で、該当科の先生に連絡し、できれば一緒に診療をしてもらうことが望ましいです。

特に手術や血管内治療などが必要となる可能性がある場合は、処置を行う部屋の準備にも時間がかかるため、患者さんを助けるためには、確定診断を待たずにできるだけ早めに連絡しましょう。

手術室にいくのは時間がかかる
C(循環)の評価と治療介入の順
  1. ショック徴候:血圧低下・脈拍の異常、四肢末梢や体幹の皮膚のチアノーゼ・冷感湿潤(冷汗)の確認
  2. (①に異常があれば)細胞外液補液を急速輸液、カテコラミン投与も考慮
  3. エコー、心電図で原因検索
  4. 疑われた疾患の該当科に連絡し、一緒に診療してもらう
  5. 必要時には、継続的な治療や評価のためにAラインやCVを入れる

Dの評価:「意識障害と麻痺はないか?」

満を持して、Dの評価をしましょう。
神経学的所見はたくさんありますが、まず手始めに「意識レベルはどうか? 左右の瞳孔径と対光反射は正常か? 片麻痺はないか?」を見ましょう。

明らかに意識障害のある患者さんでは、JCSよりもちょっと面倒くさいですが、GCSで評価したほうがより詳しくわかります
GCSは開眼言語反応運動反応をそれぞれ見ることができるからです。
GCSは合計で15点満点ですが、E○V○M○のように別々に評価しましょう。満点はE4V5M6になります。

重症患者さんでは、Dの評価をする時点では、まだ他のバイタルサイン(特にBとC)が完全に回復していないことも多いので、その場合は正確なDの評価はできず、参考所見となります。

また、意識障害のある患者さんでは、画像精査に行く前に必ずデキスター(簡易血糖測定器などで血糖値を測定しておきましょう。
低血糖でも、片麻痺や構音障害など、脳梗塞にしか見えない症状が出る場合があります。

意識障害の器質的な評価するには、頭部画像診断が必要です。
特に瞳孔径の左右差など脳ヘルニア徴候のある場合は、早めに頭部CT評価をしたところ。

しかしCT室への大移動を始めるのは、必ずABCのバイタルサイン(特に血圧とSpO2)が安定しているのを確認してからにしましょう。
CT室やMRI室は患者が急変する別名「死のトンネルとして恐れられています。

急変は、急なバイタル変動によるショックや心肺停止だけでなく、嘔吐による窒息も多いです。
CT台に患者さんが乗っている状態だと、医療従事者が頭元に回れないので、気道を確保するのがとても大変で、心停止にいたってしまうこともあります。
これは院内急変に関するオカレンスとしても有名です。

できる限り患者さんの顔を見ておき、突如えづきだしたりしないか常に警戒しておきましょう。

CTやMRIを「死のトンネル」にしない!
D(神経)の評価と治療介入の順
  1. 意識レベル、左右の瞳孔径と対光反射、片麻痺の有無
  2. (①に異常があれば)血糖測定
  3. (①に異常があり、かつABCが安定していれば)頭部CT、+病態に応じて、胸腹部骨盤CT

Eの評価:「全身の体表所見と体温は?」

Eの評価は、脱衣をして全身の体表所見(外観)を確認します。
特に体温で、「高体温や低体温がないか?」を見ることは重要です。

重症患者さんは、どうしても処置のために服を脱がされた状態にされることが多く、基本的には保温が重要です。
評価や処置をしている部分以外は、こまめに布団ベアーハガーのような保温材をかけるなどの対策をしましょう。

これは処置に熱中している医師ほど忘れられがちなので、自分が患者さんをメインで見ていないときや処置をしていないときなどに気にかけてあげたいところです。

患者さんを温めよう!

また、病歴などから高体温や低体温が疑われる場合は、腋窩など体表温が正常でも、必ず膀胱温直腸温など深部体温を測定して評価しましょう。

高体温の場合は、当然、物理的に冷却して熱を下げる必要があります。
(解熱鎮痛薬で熱を下げようとすると、予後が悪くなるのでオススメしません。)

ABCDEアプローチが終了したら

さて、ABCDEの評価が終わったら、どうすればいいのでしょうか?
答えは簡単。再度ABCDEアプローチに戻ります

ABCDEの評価を繰り返しながら、患者さんの病態を把握して原因疾患を検索し、できる限り早く根本治療を行います
逆に言うと、原因疾患の根本的な解決ができるまでは、ABCDE評価は繰り返す必要があります。

ABCDEアプローチは、あくまでも対症療法、つまり根本治療ができるまでの時間稼ぎです。

今この記事を読んでいる皆様の多くは、初期研修医や救急は非専門の先生、看護師さんなどだと思いますので、これらの評価と治療介入を繰り返しながら、上籍医や専門医の指示に従うのが現実的でしょう。

なお、自分の病院では根本治療や集中治療管理ができない場合は、患者さんやご家族の希望に応じて、転院などを検討します。

まとめ


以上、重症患者さんの診かたを、ABCDEアプローチで解説しました。
ここまで読んでくださった皆様には、重症患者さんの診療はワンパターンであることが伝わったかと思います。
救急外来だけでなく病棟の急変など、あらゆる場面でもアプローチの基本は同じです。
(大きな違いは、患者さんご本人のベッドの周辺が緊急処置にあまり適していないことが多い点ですね。必要に応じて処置しやすい場所への患者さんの移動も検討してください。)

ABCDEアプローチの具体的なお作法が分かったら、まずはイメージトレーニングをしてみましょう。
可能であれば、ストレッチャーの上にぬいぐるみを置いて、数人で声に出しながら練習するのがオススメです。
あとは臨床現場でひとつひとつ実践するだけで、抜けや漏れなく患者さんを救命できる可能性が格段に高まります

様々な疾患の患者さんたちに対して何度も同じやり方を繰り返すうちに、スムーズな初期対応ができるようになり、よりアドバンストな鑑別診断や根本的な治療を考える余裕も生まれてきます

もちろん患者さんが重症になる前に診療ができるならそれに越したことはないですが、重症な患者さんにもある程度の頻度で遭遇するのが医療機関というもの。

本記事が、重症患者さんの診療をする際の皆様のお役に立てれば嬉しいです。

参考文献

  1. 日本救急医学会・日本外傷学会,「外傷初期診療ガイドラインJATEC 」, へるす出版, 2021
  2. 集中治療医療安全協議会, 「FCCSプロバイダーマニュアル 第3版」, メディカルサイエンスインターナショナル, 2018
  3. 日本救急医学会, 「医学用語解説集」, https://www.jaam.jp/dictionary/dictionary/index.html, 2009
  4. 日本救急看護学会『フィジカルアセスメント』編集委員会,「救急初療看護に活かすフィジカルアセスメント」, へるす出版, 2018
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