この記事では、救急外来での簡単な診察と検査の仕方をお伝えします。
診察のやり方や検査のオーダーの仕方は人それぞれですが、ここでは、最低限これだけはやっておきたいという基礎の部分に焦点を絞って解説します。
本記事は、
- いつもなんとなく患者さんを診察しており、適切なやり方が分からない
- 救急外来ではどこまでの検査をやっていいのかがよく分からない
- 救急外来ではどこまでの検査をやっていいのかがよく分からない
- 勉強はしたけど臨床現場ではフィードバックもないので、診察や検査を過不足なく行えているのか不安
- 救急外来での診察や検査のコツを知りたい
そんな方たちのための記事になっています。
一つでも当てはまった方も、一つも当てはまらなかった方も、読んで損のない内容だと思います。
診察は、問診に次いで(あるいは同じくらい)ER型救急医が大事にしている診療行為です。
現場でのリアルなノウハウをお伝えしますので、今回も少し長いですがお楽しみ頂けると嬉しいです。
救急外来では、診察と検査の前に問診があります。
問診についての記事を読んでいないという方は、下記の記事を先にを読んでから本記事に戻ってくると、より理解が深まります。
身体診察・検査の総論
さて、外来での診察といえば、系統的な身体診察法(Systematic physical examination)が有名ですよね。
このように系統的に全身を診ることは診断には大事ですが、救急外来での診療は残念ながらあまり時間がないもの。
全ての患者さんに全く同じ診察を行うのは、ちょっと効率的とは言えません。
そこでまずは【既往歴】+【主訴・病歴 】+【身体所見 】のコンビネーションから、鑑別疾患を挙げましょう。
その鑑別疾患を念頭に、身体診察や検査で可能性の高いものを絞っていきます。
ただしこのとき、既往歴(特に心疾患のリスクや基礎疾患の増悪)と関連がありそうな症状がある患者さんや、癌やステロイドの長期使用などで易感染性がある患者さんでは、症状が軽くても検査のハードルを下げる必要があります。
さて、救急外来であなたを助けてくれる最大の存在は、もちろん医療スタッフの皆さんや上級医です。
とはいえ、プロの医療者として、自分で一通りのことはやれるようになっておきたいですよね。
この記事では、救急外来であなたに使える武器を紹介していきます。
救急外来で使えるあなたの「7つ道具」
救急外来で行うことのできる診察や検査は限られています。
しかし多くの救急外来では、あなたには7つもの立派な武器があります。
先にこの「7つ道具」だけ挙げておきましょう。
診察で使えるあなたの「7つ道具」
①あなた自身の身体の感覚 :手、鼻、目、耳
②聴診器
③心電図
④エコー
⑤採血+点滴ルート
⑥尿検査
⑦画像検査:レントゲン、CT、MRI
大きく分けると、①と②は身体診察で、③~⑦が検査ですね。
この7つ道具の詳細については後で説明することにして、まずは、身体診察の総論から考えてみましょうか。
身体診察の総論
皆さんもこれまで、問診で患者さんの話を傾聴することの重要性は、医療者教育の中で耳にタコができるほど聞いてきたと思います。
しかし、患者さんの主訴に対する集中的で丁寧な身体診察は、多数の検査以上に「きちんと診察してくれた」という感覚をもたらし、患者さんの満足度を大きく上げることは、意外と知られていないように思います。
患者さんの身体的負担も軽い診察によって、医療費もかけずに診断に対する納得感も高まるのだとしたら、こんなに誰にとっても嬉しい話はないですよね。
患者さんは検査を希望して来院することも多いと思いますが、最終的にはむしろ、患者さんの訴えへ誠実に向き合う医療者の姿勢を評価してくれるものだったりします。
(逆に、患者さんに陰で「腹痛があるって言ったのに、○○先生はCTだけ見てお腹を触ってもくれなかった!」と言われているドクターを、時折見かけますヨ……。)
さて身体診察の重要性が分かったところで、いきなりですが質問です。
患者さんの身体診察を行うとき、医療者は一体どこを見ていればいいでしょうか?
「当然、触る場所!」ーーと答えた方……惜しい。半分正解です!
身体診察では(特に圧痛の所見をとるときは)、患者さんの顔を見ながら行いましょう。
それは何故でしょうか?
では次の質問です。
腹部を触診したときに、「いったーい!」と大声で騒ぎながら平気な顔をしている患者さんと、「大丈夫です……」と小さな声で苦悶様の表情をしている患者さん、どちらが重症でしょうか?
ハイその通り。多くの場合は後者ですよね。
目は口ほどにものを言うとはこのことです。
診察する部位だけを見ていては、この重要な情報を得ることができません。
特に腹痛の鑑別疾患は多く、疼痛の性状と持続時間などの【問診】+【身体所見】(特に圧痛の所見)が鑑別診断の要と言っても過言ではありません。
このように、どこがどのくらい痛いのかを知ることは、大変重要なことです。
(横道にそれますが、腹痛の問診では「過去に同じような症状はありましたか?」「そのとき何か診断名がつきましたか?」という2つの質問が、臨床診断に非常に役立ちます。
腹痛は過去に同じ症状があった場合、同じ病気である可能性がかなり高いからです。)
次はこのまま検査の総論に行きましょう。
どうして身体診察の各論の前に検査の総論の話をしてしまうかというと、忙しい救急外来では身体診察と検査が同時進行になることが多いからです。
検査の総論
検査というものは、問診と身体所見から挙げた鑑別診断に対して(特異度の高い検査で)“診断を確定する”、または(感度の高い検査で)“否定する”ために行います。
(感度の低い検査が陰性でもその疾患を“否定”したり、特異度の低い検査が陽性でも“診断を確定”をしたりはできないことに注意が必要です。
詳しくはこちらの記事で説明しています。)
確定診断をするために行った検査であれ、ある疾患を否定するためにおこなった検査であれ、あるいはなんとなく思いつきで行った検査であれ、検査をするということは「病気の証拠が残ってしまうこと」であるのをお忘れなく……。
不要な検査をなんとなくでオーダーすると、予想外の異常を見つけてしまったときに、後で困るのも自分です!
しかし一方で、上記の問診の記事で述べたような“特別な患者さん”以外にも、認知症の高齢者(特に独居で普段の様子が分からない)患者さんや、知的障害・精神疾患の(身体所見がはっきりしない、非特異的)患者さんなどは、検査を多めにして、他覚的に診療をせざるを得ません。
同じ病歴と同じ症状でも、患者さんによって必要な検査が変わるのが、臨床診療というものです。
ただし、こういう人にはたいてい付き添いがいます。
その付き添いの人から病歴聴取をしたり、発症時の目撃者や普段を知る同居者や知人、かかりつけ医に電話で状況を確認することを怠ってはいけません。
昨今の風潮で、
「無駄な検査は全て省くべき」
「陰性になってしまった検査は無駄だった」
「検査はしなければしないほどカッコイイ!」
という考え方をする若い先生もおられますが、それも少し違います。
その疾患の可能性が高くなくても、病歴・身体所見から疑い(これが一番大事です!)きちんと否定すべき鑑別診断があれば、「検査は陰性だろう」と予測しながら特異度の高い検査(除外に有用な検査)をする必要があります。
「自分は狙いを絞って検査をオーダーするので、検査結果はほぼ100%陽性」という自慢は、裏を返せばその陰で、多くの疾患を見逃している証拠とも言えます。
鑑別疾患の評価のために行った検査が常に陽性である必要はなく、「検査は陰性だった」というのも非常に重要な所見です。
必要な検査であれば、空振りを恐れてもいけません。
同じ検査はなるだけ繰り返さない
できるだけ同じ検査を2度繰り返さないというのも、実は意外に患者満足度に大きく影響します。
例えば「レントゲンを撮った後に他の部位の異常が見つかって、もう1回レントゲンを撮りに行ってもらう」とか、「単純CTを撮影したら評価が難しい部分があり、次に造影CTを撮りに行く」ことってありますよね。
こんなとき患者さんは何も言わなくても、心の中では「2回も同じことをさせられた」「手際が悪い(=医者の腕が悪い)」と不快に思っていたりします。
造影CTが追加で必要になるかもしれない場合は、単純CTに行く前に「この普通のCT検査だと○○が分からない可能性があるので、もし気になる所見がある場合は、造影剤の注射を使ったさらに詳しい検査をさせて下さい」とあらかじめ言っておきましょう。
またエコー検査を自分でやり後で上級医にも確認してもらうときなどは、あらかじめ上級医に声をかけておき、エコー中に来てもらい、自分の手技と含めて一連の動作としてやるのがベストでしょう。
とはいえ忙しい臨床現場ではそれが難しいことも多いので、そういう場合は事前に同じ検査を繰り返しやることを患者さんに説明しておくのがベターでしょう。
これで総論は終わりです。
いよいよ次からは、救急外来の診察で使うことのできる、あなたの持つ「七つ道具」を確認していきましょう。
救急外来で使えるあなたの「7つ道具」
以下の「7つ道具」が、あなたが救急外来で使える武器です。
これらを使いこなして診療に臨み、救急外来での診療を自分のものにしていきましょう。
診察で使えるあなたの「7つ道具」
①あなた自身の身体の感覚 :手、鼻、目、耳
②聴診器
③心電図
④エコー
⑤採血+点滴ルート
⑥尿検査
⑦画像検査:レントゲン、CT、MRI
それでは①から順に、一つづつ見ていきましょう。
①あなた自身の身体の感覚
あなた自身には、超高性能な診察用装置が備わっています。
それはあなたの手(掌と指、手の甲)、鼻、目、耳です。
・手:
脈を測る、四肢や体幹の冷汗を確認、体温を確認、触診、直腸診
・鼻:
アルコール臭、タバコ臭、尿便失禁(意識障害や不衛生な環境の証拠)、出血や下血の臭い、ケトン臭など
・目:
患者さんの見た目(社会的地位、性格、インテリジェンス)、尿や便の色は自分で確認しましょう
・耳:
聴診器なしでも聞こえる呼吸音(wheezeなど)、うるさい人? またはしんどくて喋れない人? 寡黙な人?
さあ、ひとつずつ見ていきましょう。
手
手は、ご存知のように様々な場面で使うことができます。
例えば救急車から降りて来た患者さんであれば、まずは患者さんに声をかけながら、さっと自分の指で患者さんの橈骨に触れて脈を取ります。
このとき患者さんの手が湿って冷たければ、「末梢冷感湿潤がある」と判断して「早期のショック徴候」を捉えることができます。
脈拍の触診が役立つというのは、もちろん救急領域にだけに限った話ではなく、特に総合診療科や内科では、患者さんを診療する際には「必ず真っ先に、3本指で撓骨動脈の脈を触る」という先生もいらっしゃいますね。
このときの3本指とは、揃えた示指・中指・環指のことです。
また触診でも、あなたの掌は大活躍します。
これはすでに色々なところで習っていると思いますので、詳しくは割愛します。
触診の注意点をひとつ。
触診する場所を一気にあるいは強めに押したりすると、患者さんは本来なら圧痛のほとんどない場所でも「痛い」と言います。
少し想像してみれば、誰だって体の柔らかい部分を強く押されたら痛く感じるのは、当然のことですよね。
患者さんの触診は、常にソフトタッチを心がけましょう。
優しく、ゆっくりと押したときでも患者さんが痛く感じるのが、本当の「圧痛」です。
触診の方法は色々ありますが、ひとつの参考として「仏のK先生」の異名で知られる優しい上司から教わった、ソフトな腹部の触診方法を記しておきましょう。
たとえばあなたが右利きなら、こんな感じです。(左利きの方は、逆の方がやりやすいと思います。)
自分の左掌(示指・中指・環指を中心に、指先でなく面全体で触る感じで)を触診したい場所にそっとのせ、その上に右手(こちらも示指・中指・環指)を重ねます。
左手は力を入れず、右手で左手をそっと押し、間接的に左手を深く沈めていくように触診すると、本当に圧痛のある部位だけを見つけることができます。
直接右手で押すよりも患部をマイルドに押すことができるので、触診の初心者にオススメです。
圧痛を見る時には、触診する部位だけでなく、患者さんの表情をよく見ておきましょう。
先述の通り、「痛い」という口から出た言ったよりも、患者さんの表情の方が痛みの強さを雄弁に物語っていることもあります。
手の他の使い道も簡単に挙げておきましょう。
我々の指は、直腸診で便潜血や腫瘤性病変の評価をするのにも活躍しますね。
また手の甲は、体温計の表示温度に疑問を抱いたとき(特に高体温や低体温が疑われるとき)に、体幹部を触って体温を確認するのに役立ちます。
鼻
診療においてニオイは非常に重要です。
医学教育では、様々な疾患特異的なニオイについて習いますが、実際には医学的な名称がついている以外のニオイの方が多くお目にかかる(鼻にかかる?)ものです。
例として、アルコール臭、タバコ臭、尿便失禁 臭 、吐血・下血のにおい、長く入浴していない人の脂のにおいなどが挙げられます。
救急外来で働いていれば、それぞれの特有のニオイに習熟して区別がつくようになり、患者さんの病状や生活環境までも推察できるようになるでしょう。
ただし、そのような何か匂いを感じた時に、カルテに「○○臭あり」のように書くのはやめておいたほうが無難だと、恩師のT先生に習いました。
例えばカルテに「アルコール臭あり」と書いてしまった場合、裁判などのため警察から公的なカルテの開示請求が来た場合、「アルコール臭あり」=「患者が飲酒運転をしたと医師が判断した証拠」と捉えられてしまうことがあるからです。
筆者の経験ではありませんが、以下のような症例の話を聞いたことがあります。
救急隊から「飲酒運転による外傷性心停止」と連絡を受けた単独事故の患者さんが搬送されてきました。
現代医学における、外傷性の院外心肺停止症例の救命率はほぼ0%。
病院に着いたあと、患者さんは残念ながら死亡確認となりました。
診療にあたった医師いわく、その患者さんからはむせ返るようなアルコール臭がしていたと言います。
医師も警察も、誰もが飲酒運転による自損事故だと考えました。
しかし、ご家族だけはそれを認めません。
「あの人は絶対に飲酒運転なんかしない!」という強い訴えで、亡くなった後に血液検査をしたところ……なんとアルコール血中濃度はゼロ。
実際はあの強いアルコール臭は、お土産に持って帰ろうとしていたお酒の瓶が、事故の衝撃で割れたことで生じたものだったのです。
この話を聞いたときに筆者が勤めていたのは、夜間アルコール血中濃度が測れない病院でした。
うっかり飲酒運転と決めつけ、カルテにも「アルコール臭あり」などと記載して証拠を残していたら……と思うと、ぞっとしますね。
皆さんもご存知のように、カルテは公文書です。
においのような主観が強く入りやすいことを所見として書くことは、あまりお勧めできません。
その理由は、主に以下の2つです。
1つ目は、患者さんやその家族からカルテ開示請求の可能性があるからです。
ケトン臭など疾患特異的なニオイならまだしも、カルテに「アルコール臭」「タバコ臭」などと書かれているのを見るのは、患者さんからするとあまり気分のいいものではないでしょう。
においに関する言及は、悪口を書かれているように感じる人もいます。
カルテ開示を請求されるような状況で、患者さんやご家族に悪感情を持たれるのは、あまり望ましくなさそうです。
また、診察中にカルテが患者さんの目に入ってしまうこともよくありますよね。
(カルテを覗き込んでいる患者さんも結構多いです。)
2つ目は、公文書であるカルテは、意図せず裁判などで証拠として扱われてしまうからです。
我々はカルテを、あくまで医学的な観点から書いているだけですが、裁判官にとってカルテは契約書などと同じ公的な文書。
彼らは、現場の状況や証言も参考にはしますが、特にカルテような文書記録を重要視して判決を下します。(と、医療訴訟を扱っている裁判官の方に伺いました。)
カルテの記載が誤解を招いて「証拠」となってしまい、患者さんやそのご家族に不利益が生じるのは避けたいところですね。
裁判に巻き込まれないためという点においても、憶測になり得る所見はカルテには書かない方が無難でしょう。
目
一説によると、人間は視覚情報が9割などと言いますから、いまさらその重要性を語る必要はないかもしれません。
患者さんの見た目から得られる情報というのは、我々の行う診療に大きく影響します。
「人を見た目で判断するな」と言いますが、初対面の患者さん相手の場合、本人の内面を推察する手段は限られており、見た目での判断はある程度有用です。
見た目から得られる情報はたくさんあります。
まずはもちろん、ショックや疼痛など、医学的なことです。
また尿や便の色も、人づてに聞くよりも、自分で確認した方が正確ですよね。
さらには見た目から患者さんの生活環境を推察することも、立派な臨床推論のひとつです。
例えば季節に合った清潔な服を着ているかなどの服装は、子供や高齢者など虐待を見つける上でも役立ちます。
もちろん服装だけでなく、患者さんの表情も重要です。
常に眉根を寄せて気難しそうな人なのか、優しく微笑んでいる人なのか、我慢強そうな人なのか……それによって、診断が変わることすらあり得ます。
それ以外にも、目から得られる情報はたくさんあります。
たとえば、 見た目は言動と合わせ、その患者さんがどういう性格をしているのかや、ある程度インテリジェンスなども察することができます。
あるいはその人さんがいわゆる特権階級の意識を持っている人なのか、はたまた権威的なものに対して反感を持つようなヤンチャそうなタイプなのか、などというのもとても重要です。
この情報により、ときに診療が大きく変わります。
たとえば理屈っぽい性格の人と、感情を優先する性格の人に同じ説明をしても、片方にしか理解が得られない場合があります。
理屈っぽいことが好きそうな人なら、エビデンスに基づいた説明を好みそうですし、逆に難しいことは考えたくないというタイプなら、感情に訴えるような説明のほうが好まれるかもしれません。
理屈っぽい人に「この薬をのむと心血管疾患になるリスクが△%減ります」と言えば、「薬の効果を詳しく説明してくれた」と納得して、服薬コンプライアンスが良くなるかもしれません。
しかし感情優先の人にそれを言っても「だから何?」あるいは「この医者は小難しい数字の話ばかりしていて、私個人のことなどちっとも考えてくれない」と思うかもしれません。
こんなとき、感情優先の人にはむしろ、「お孫さん、可愛いですか?」と聞いて肯定されたら、「このままだと、お孫さんが大きくなるのを見届けられないかもしれません。お孫さんの成長、見たいでしょう?」と言ったほうが、治療の重要性が伝わることもあります。
この言葉、「別に長生きなんかしたくもないわ、自分の好きにさせてよ!」などと語る患者さんにも、驚くほどよく効きます。
(この手法を、筆者の恩師は「孫を人質にとる」と呼んでいました。
筆者は、身内からの食事指導を受けたがらない自身の親にもこの手法をよく使っています。
正直どんなエビデンスよりも効果的です……恐るべし孫パワー。)
さらには特権階級の意識がある人なら、「他の人とは違う特別感」のあるインフォームドコンセント(IC)を求めることもあるでしょう。
(一部の著名人が「標準治療」に納得せず、より「高度な医療」を求めた結果、エビデンスの乏しい代替医療だけを受けて病状を悪化させてしまったというニュースの中にも、「標準治療」という「並コース」のような響きの言葉への誤解が背景に紛れ込んでいたのではないか、もっと治療を受け入れやすいICの方法があったのではないか……などと妄想することがあります。)
一方、ヤンチャそうな人であれば、長々とした説明よりも、シンプルで直感的に分かりやすい説明のほうが好まれ、アドヒアランスが良くなることもあるでしょう。
また、患者さんのインテリジェンスを推測することに何の意義があるのかと不思議に思う方もいるかもしれません。
しかし我々医療の専門職は、相手の理解できる語彙の範囲によって、インフォームドコンセントで使う言葉を変える必要があります。
例えば、患者さんが中学生なら「あなたの腹痛の原因は、虫垂炎、俗に言う盲腸です。抗菌薬で治療しても、後日同じ症状が出る可能性が高いので、手術をお勧めします」と言われた方が理解しやすいでしょう。
逆に患者さんがあなたのような医療者だった場合は、「カタル性虫垂炎ですが、糞石を伴っているので、保存的加療よりもオペを勧めます」と言われたほうがイメージがわきやすいでしょう。
そして患者さんに合った病状説明をすることが、今後患者さんがどう疾患と付き合っていくかを決めると言っても過言ではありません。
耳
耳で聞く音も大事です。
心音や呼吸音の重要性は、これまでもくり返し学んできたことでしょう(聴診器の章で後述します)。
聴診器なしでも聞こえるwheezeなど、音による重大な所見は枚挙に暇がありません。
しかし我々が音から得られる情報は、それだけに限りません。
例えば、あなたの患者さんはよく喋る人でしょうか? それとも静かな人でしょうか?
……それは患者さんが寡黙な人だからですか?
それともあまりにしんどくて喋れない状態だからですか?
あるいは何かに腹を立てているのでしょうか?
患者さんの喋り方は、重症度を判別する材料にもなりますし、患者さんの性格や今の気持ちを推察する手がかりにもなります。
注意して耳を傾けるようにしましょう。
なお余談ですが、さっきまで怒っていた人、大声でクレームをつけていた人が突如黙るのは、暴力をふるう前のサインの可能性があります。
相手を刺激せず、さりげなくしかし可及的速やかに逃げてください!
あなた自身の身体の感覚まとめ
以上が7つ道具の①、あなた自身の身体(手(掌と指、手の甲)、鼻、目、耳)の感覚でした。
自分の身一つでも診察できることがこんなにあるんですね。
もちろん、医療者個々人によって、鋭い感覚とそうでない感覚はあると思います。
それでも、自分の常に感覚に敏感であることは、診療の上で欠かせないことです。
そう、つまり医療者は身体が資本です!
救急外来勤務は本当に大変だと思いますが、自分の身体や感覚を大事にして下さいね。
なお、最後に水を差すようですが、我々の五感を通して得られる身体所見だけでは、判断ができないこともたくさんあります。
例えば、痛みが強いわりに身体所見に乏しい場合(腹痛で悶絶しているのに腹膜刺激症状陰性など)、鎮痛剤が効かない場合などでは、いつも以上に強く血管系疾患も疑いましょう。
よくあるのが、発症早期の絞扼性イレウスや、SMA塞栓や解離、大動脈解離、卵巣捻転、心筋梗塞、クモ膜下出血などなどです。
②聴診器
聴診で聞けるものは山ほどありますね。
最低限知らないと現場で恥ずかしい思いをする(あるいは患者さんに不利益が生じる)ものを挙げると、以下のような感じでしょうか。
気管呼吸音
・stridor:窒息、クループ症候群(ときに喉頭蓋炎)など上気道狭窄 超緊急!
→吸気時のかすれた高い音「ゼーゼー」「ヒューヒュー」(聴診器なしでも聞こえる事が多い)
・いびき音 rhonchi:上気道の分泌物の貯留
→連続する低い音「グーグー」
・喘鳴 wheeze:喘息、心不全(心臓喘息)などの下気道閉塞を疑う
→連続する呼気時の笛のような高い音「ヒューヒュー」「ピーピー」
肺野呼吸音
・水泡音 coarse crackles (rales):気管支肺炎、気管支拡張症など痰の多い疾患
→吸気初期(~呼気)時の低く荒い音「プツプツ」「ポコポコ」
・捻髪音 fine crackles:肺炎、間質性肺炎、肺線維症など肺胞間質の肥厚を起こす疾患
→吸気末の高く細かい音「パリパリ」「チリチリ」
・呼吸音の減弱、左右差:気胸、胸水など
心音
・Ⅲ音:心臓拡大(ただし若年者では正常でも聞かれる)
→Ⅱ音の後に出現する音 「おっ(Ⅰ)・か(Ⅱ)・さん(Ⅲ)」
・Ⅳ音:心肥大(必ず病的な所見)
→Ⅰ音の前に出現する音「お(Ⅳ)・とっ(Ⅰ)・つぁん(Ⅱ)」
心雑音
・収縮期駆出性雑音:大動脈弁狭窄症(AS)など
→Ⅰ音の後に漸増・漸減しⅡ音の前で終わる雑音(音量がダイヤモンド型)
・収縮期逆流性雑音:僧帽弁閉鎖不全症(MR)など
→Ⅰ音からⅡ音まで連続する雑音(音量が一定)
・拡張期逆流性灌水様雑音:大動脈弁閉鎖不全症(AR)など
→Ⅱ音から始まり漸減する高い音「シュー」
・拡張期ランブル:僧帽弁狭窄症(MS)など
→ Ⅱ音の後の拡張中期から始まり漸減する低く小さい音「ゴロゴロ……」
※拡張期ランブルはベル型のみで聞こえる
・連続性雑音:動脈科依存症
その他
・挿管時:心窩部胃音+左右側胸部呼吸音
聴診に関しては、専門書がたくさんあるのでそちらにお任せします。
今はyoutubeなどにもすばらしい動画が山ほどアップされています。
例えば呼吸音ならこちら。
心音ならこちらも良いですが、個人的には「診察と手技がみえる vol.1」↓に付録としてついてくるCDがお勧めです。
医学生の多くが持っているシリーズですし、日本語で心音の解説をしてくれているのでとっつきやすいです。
今回挙げたこれらの聴診所見は本当に最低限のもので、聴診のプロならもっと色々聞き取ることができます。
聴診の分野だけで何十冊も本が出ているほど、奥の深い分野です。
でも筆者は聴診が苦手です……。
ER医は「聴診器を持つ時間よりも、プローブを持つ時間の方が長い」などと言われることもあるほどエコー好きが多い一方、聴診は医者ごとに好みが分かれる印象です。
まぁ、これはエコーのほうが手っ取り早いと思ってしまうダメER医の言い訳ですが……一緒に勉強させてもらえると嬉しいです。
③心電図
救急外来における心電図検査は、主に心筋梗塞と不整脈を探すのに使います。
心筋梗塞を探す
まずは四の五の言わずに、胸痛、胸部不快感、嘔気・嘔吐、高齢者の倦怠感(不定愁訴を含む)、息切れ、心臓から半径30cm以内の場所(胃痛はもちろん、上腹部痛、喉(前頚部)や歯の痛み、肩・背中の痛み、など)のときは、心電図をとってしまいましょう!
心筋梗塞で最も頻度の高い急性症状は、息切れ(57.9%)、脱力感(54.8%)、全身倦怠感(42.9%)。
曖昧な主訴が実は心筋梗塞だった、という症例は案外多く、常にアンテナを高くしておくのが患者さんと自分のためです。
Q. 何故筆者はここまで心電図に固執するの?
A. 心筋梗塞は非典型的な症状の症例が非常に多いから(特に女性、高齢者、糖尿病患者)!
中でも急いで(<90分)心臓カテーテル検査をする必要があるSTEMI(ST上昇型心筋梗塞)は、早期発見早期治療が予後に大きく影響するため、医師としては絶〜っ対に見逃せません。
本音を言ってしまえば、胸痛、胸部不快の原因が明らかに他にあったとしても、成長発育が正常の若年者以外は取っておいて損はしません。
具体的に、他に疼痛の原因があるように見えるのに心電図が有用な例を見てみましょう。
- 飲酒後の胸部不快感(ただの酔っぱらい?)
→実は飲酒すると「心筋梗塞」のリスクが上がる(オッズ比2.6) - 胸部打撲症(肋軟骨損傷かな?)
→実は胸骨骨折で「心筋挫傷」(不整脈を誘発) - 胸部圧痛がある(筋骨格系の疼痛でしょ!)
→それでもまさかの「心筋梗塞」
上記は例えば、次のような状況(症例1~3)を想定しています。
症例1:飲酒後に嘔吐した、吐き気がして胸がつらい50代男性
ハイ、見るからに酔っ払いですよね。
そりゃ呑みすぎりゃあ吐き気もするでしょうよ、俺もたまには病棟からのコールを気にせず酔いつぶれるまで飲みたいなぁ……そんなことを考える医療者も少なくないはず。
しかし実は飲酒中というのは心筋梗塞のリスクが上がります。
ある研究によると、オッズ比2.6なんて報告も。
実際の症例を見てみましょう。
「同僚が飲み会で酔っ払っちゃって……」と会社の同僚の方が50代の患者さんを車で連れて来ました。
「しんどそうで車の中から動かせないので、出すのを手伝って下さい」とのことで、患者さんを車内から運び出してストレッチャーにのせました。
患者さんは顔色が悪くぐったりしていたため、処置室に入れ診察を開始したところ、血圧が低くショック状態です。
慌ててとった心電図では、広範囲のST上昇と徐脈を認め、すぐさま循環器の先生を呼び出している最中に心静止。
蘇生の甲斐なく、最終的に患者さんはお亡くなりになりました。
あとで同僚の方に話を聞くと、「彼は酒豪のはずなのに、今日はいつもより酔いが回るのが早く、様子が変だと思って病院に連れてきんです……」という話でした。
(この、「普段とは違う」という病歴は重要な所見です。)
酔っ払いだと思われた患者さんは、実際には飲酒中に心筋梗塞を起こしていたのでした……。
症例2:自転車運転中の事故で胸部を打撲した30代男性
外傷、特に胸部打撲傷で、何故心電図が必要なのでしょう?
一つは、事故の原因が心筋梗塞や不整脈だった可能性があるためです。
そしてもう一つは、胸骨骨折があるときは、心筋挫傷を起こしている可能性があるからです。
胸骨が骨折しているということはすなわち、胸部に強い外力が加わった証拠です。
胸骨の裏には心臓があり、強い外力により心筋挫傷を起こしている可能性があります。
心筋挫傷では不整脈を起こすことがあり、心電図の確認が必要になるわけですね。
骨折診断で一番重要なのは、画像診断ではなく、身体所見で圧痛があるかどうかを見ることです。
しかし、胸骨骨折だけは、身体所見で診断することが非常に難しいと思います。
救急医としての筆者の経験上、「ハンドルに胸をぶつけた」など、受傷起点と胸痛の訴えから「これはきっと胸骨骨折があるぞ!」と積極的に疑い身体所見をとっても、意外と胸骨そのものには圧痛がなく、「痛むのは肋骨と胸骨の間か……肋軟骨損傷かな?」と思うことが多いです。
そして念のためにとCTで矢状断(サジタル)像を作ってもらったときに、「えっ!? やっぱり胸骨折れてるじゃん!」と初めて診断がつく、というパターンがはほとんでした。
なお、胸骨骨折は水平断(アキシャル)像ではわからないことが多いので、受傷起点から胸骨骨折を否定できないときは、必ず放射線技師さんに矢状断の作成をお願いしましょう。
このように胸骨骨折は、身体所見が必ずしも当てにならないので、受傷起点から疑った方が賢明かもしれません。
そして胸骨骨折を疑ったときは、確定診断を待たなくても良いので、心電図も一枚とってしまいましょう。
症例3:胸部圧痛がある70代女性
胸部圧痛があるにもかかわらず、なぜか心電図でST上昇があり「心筋梗塞」ということがたまにあります。
その触診による疼痛増悪の機序は謎なのですが、もしかすると痛いところを押されているので、そこを意識してさらに痛く感じるのでしょうか……?
特に高齢、女性、糖尿病患者さんでは、心筋梗塞は非典型的な症状が多いことが分かっています。
筆者も、何度心筋梗塞らしくない主訴(「なんとなくだるい」など)の患者さんの心電図にST上昇を見つけて、肝を冷やしたことか……気をつけましょう!
上記の症例1~3のようなときは、オリジナリティを発揮すべき場面ではありません。
飲み屋に行ったときに「とりあえずビール」と注文するくらいの感覚で心電図をとってしまいましょう。
心電図のみかた
ごく簡単にだけ、心電図の見方をみてみましょう。
心電図の読み方は、それだけで何冊の本も出版できるほどに奥が深いので、実臨床の中で少しずつ勉強していくのがオススメです。
心筋梗塞編
心電図の読み方の詳細は別記事に譲るとして、とりえあず一つだけ覚えるとすれば、1枚の心電図にST上昇と低下(鏡面像)の両方があれば、ほぼ確実に心筋梗塞である、ということでしょうか。
ただし右室梗塞を疑う(ⅡⅢaVFのST上昇±V4~6あたりのST低下)ときに、実は心筋梗塞の原疾患が大動脈解離だった、なんてトラップに引っかかる可能性もあるので、必要に応じてエコーやCTでのさらなる評価も行いましょう。
なお筋電図が入っていて読めない心電図は、検査していないのと同じです。
心電図は時間による波形の変化が何より大切なので、最初からなるだけ丁寧に撮らないと、再検査をして比較するときの参考になりません。
画像系の診断はすべて同じですが、特に読むのが難しい心電図は、過去のものと比較しないと足元を掬われることがあります。
院内の生理学検査の記録に心電図がなければ、別のかかったことがある病院に問い合わせてでも、過去の心電図を執拗に探し出し、今の心電図と比較することが患者と自分の人生を救います。
不整脈編
こちらも詳細は別記事に譲りたいと思いますが、「あなたも名医!もう困らない救急・当直ver.3」の「動悸」の章が筆者の渾身の作なので、良ければそちらを御覧ください(宣伝)。
まぁ雑誌扱いの書籍なので、売れても筆者達には一銭の印税も入らないんですが……(笑)。
他の章もイラストやフローチャートなどを多用しつつ、ERで見る症状とその診断・治療について、主訴別にコンパクトにまとまっていて、これ一冊でも救急外来で結構戦えると思いますよ~。
さて、不整脈は、臨床症状としては失神の有無が非常に重要です。
不整脈が原因で失神したかどうかによって、その後の循環器内科的な治療方針が大きく変わります。
そして不整脈の原因で案外多いのが、薬剤性です。
筆者も見逃してしまいがちですが、自戒を込めて……内服薬は必ずチェックするようにしましょうね。
変な心電図を見たときは高K血症を疑え
不整脈の各論について、一つだけ絶対に知っておきたいことをお伝えしておきましょう。
全身倦怠感や失神などで来院した患者さん(特に透析歴や腎機能障害のある方)で、「えっ! なんじゃこら??」と思うような、上下にギザギザの見たこともない奇妙な心電図波形(bizarre appearance)を見つけたときは、血液ガスでカリウム(K)値を見ましょう。
高K血症による不整脈の可能性があります。
高K血症の治療は、まずは1~3分で効果が出るグルコン酸カルシウム10mlを静注して細胞膜を安定化させます(ただしこれは応急措置のような治療で、K値は変化しません)。
次にグルコース・インシュリン療法として、速攻型インスリン(ヒューマリン®など)4単位+50%ブドウ糖液40ml静注)により細胞内にKをシフトさせます。
こちらは効果発現まで30分程度かかってしまうので、必ずグルコン酸カルシウムの投与を優先します。
合わせて1~3分で同様の細胞内へのKシフト効果があるβ2刺激薬(メプチン®4ml吸入)の吸入も行うこともあります。
入院前ルーチンの心電図も忘れずチェックしよう
なにか心疾患を疑ったとき以外にも、心電図は胸部レントゲンと合わせて入院前のルーチンになっている病院が非常に多いです。
そのためか入院に上がる前に検査だけして、見るのを忘れることが意外に多いです。きちんと評価をしましょう!
(ルーチン検査でも、過去の心電図を探し出し、見つかれば必ず今日とった心電図と比較することが大切です。)
④エコー
さて、次のERで使えるあなたの武器はエコーです。
バイタルサインの安定していない患者さんの診療でもその場でサッと使える、簡便な検査の代表格ですね。
先述の通り、「救急医は聴診器を使う時間よりエコーのプローブを握っている時間のほうが長い」と言われるほどエコーが大好き❤です。
画像検査室に行かなくても、ベッドサイドでリアルタイムに患者さんの中が見えるエコーは、忙しいERで働くすべての医師にとって良き相棒と言えるでしょう。
エコーは、自分の目の延長として患者さんの体の中を覗くような感覚で使ってみましょう。
エコーは外から見学しているだけでは正直全然わからず、実際にやってみないとできるようにはなりません。
上級医か検査技師さんなど、できる人に頼んで、研修医同士であてっこするのがオススメです。
またエコーは術者それぞれがコツやこだわりを持っているので、やっている人がいたら積極的に質問して学んでみましょう。
皆誰かに教わりながら学んだ過去があるので、忙しい状況でなければ嬉々として教えてくれる人が案外多いと思います。
プローブの選び方
それでは、まずはエコーを手に取るところから。
プローブの選び方の基本は、以下のように覚えておくと良いでしょう。
(ただし、指導医によっても選び方にはかなり好みが反映されるため、ある程度決まりはありますが、これが唯一の正解ということはありません。
筆者も検査技師さんやエコー好きの救急科・整形外科の先生方数名に師事しましたが、典型的な検査以外は、皆さんプローブの選び方は結構バラバラでした。)
エコープローブの使い分け
コンベックス型:扇型のデカイやつ
一番広く深い範囲を見ることができる万能選手。
腹腔内臓器(胆嚢、腎臓、膀胱、子宮、etc.)や、外傷での血気胸と腹腔内出血(E-FAST)、下大静脈IVCを見るときなどに幅広く使えます。
リニア型:長方形の平たいやつ
浅いところが細かく見えるので、皮下や筋骨格系などに使いやすいです。
頸部や肺、骨折、膝・肘関節、靭帯損傷などを見るときに便利です。
セクタ型:小さいやつ
主に心臓用です。下大静脈も見れます。
経膣用端子:細長いやつ
プローブカバーを付けて使います。
日本では、産婦人科の訓練を受けた先生以外の方が使うのは少しハードルが高いようです……。
なお、下大静脈(IVC)がコンベックス型とセクタ型のどちらでも見れるのと同様に、肺野も、コンベックス型、リニア型、セクタ型で見る派の人がいます。
他の部位のエコー検査からの続きで見るなら、そのときに持っているプローブで見るのが手っ取り早いですが、それぞれのプローブで見え方に違いがある点は注意しましょう。
エコーで探せる疾患
次にエコーで探せる疾患を見てみましょう。
以下にERでよく探す疾患を、ざっくりとキーとなる所見とともにまとめます。
今覚える必要はありませんので、こんなものが分かるんだ~くらいの気持ちでさらっと流し見してもらえればOKです。
エコーで探せる疾患とキー所見
コンベックス型プローブ
- 外傷E-FAST:
echo free space(心膜腔→モリソン窩→右胸腔→脾周囲→左胸腔→ダグラス窩の順に見る) - 脱水:
下大静脈(IVC)径とその呼吸性変動率 - 腸閉塞:
to and fro(腸管内の水様便が行きつ戻りつして、肛門側へ進まない)、
key board sign(拡張した小腸でkerckring皺壁がピアノの鍵盤状に見える) - 虫垂炎:
盲端で終わる管腔構造に圧痛、圧迫しても潰れない、直径>6mm、
カラードプラで色がつかない(血管との区別) - 腸重積:
pseudo kidney sign(左腹部に腎臓が2個あるように見える)、
target sign(↑の腸管を輪切り=短軸像で見たもの) - 腹腔内free air:
肝表面の帯状高エコー(ほとんど分からない) - 卵巣茎捻転:
卵巣腫大≧5cmで捻転が起こりやすい - 精巣捻転:
患側精巣の腫大・低エコー輝度、
ドプラ法で精巣内血流が消失/激減(かなり評価が難しい)
リニア型プローブ
- 気胸:
lung slidingの消失、
Lung point(壁側胸膜と臓側胸膜の「接する部分」と「離れている」部分の境界)、
Mモードでのseashore sign、stratosphere sign(通称バーコードサイン) - 血胸・胸水:
仰臥位で背部にecho free space - 肺水腫:
肺野全体のB-line(壁側胸膜と臓側胸膜の境界から深部へ伸びる、高輝度の線状アーチファクト) - 骨折・靭帯損傷:
皮質骨の不連続性、靭帯の緩み、周囲の血腫 - 静脈血栓症:
大腿静脈、膝下静脈などの静脈がプローブの「軽い圧迫」で潰れない=急性期血栓
セクタ型プローブ
- 心機能:
心壁運動異常(asynergy)、左室駆出力(Ejection Fraction : EF)、弁狭窄・閉鎖不全
エコーで見られるものは、まだまだたくさんありますが、研修医のうちに知っておくと便利なものはこのあたりでしょうか。
それぞれのエコー所見の詳細な解説は成書に譲ります。
エコー所見は名前だけ覚えてもあまり意味がなく、実際に動いている画像で見ないと理解することは難しいです。
エコーをあてる角度なども合わせて学ぶ必要があるので、検査技師さんや上級医に教えてもらうのが圧倒的にオススメです。
しかしどうしても身近に教えてくれる人を見つけられない方は、youtubeにもたくさんのエコー動画があがっているので、知りたい疾患や所見を英語で検索すれば見ることが可能です。
なおエコーは熱中すると時間を忘れてしまう研修医の先生も多いのですが、必ずタイムマネジメント(患者さんの検査後の診療の流れ)を意識しながら行って下さい。
エコーは施行者にしか所見が分からず(レポートの付く専門家のエコーを除く)、術者によって所見が異なり、感度特異度(検査の正確性)も決して高くはないものが多いので、後から患者さんを診る上級医は必ずしもそれを評価し診断に活かすことができません。
特に次の治療やコンサルト予定のあるような患者さんの場合は、エコーは目の代わりとして短時間だけ使ったら、あとは他の検査を優先することも考えましょう。
(状況によっては、自分の勉強のためのエコーで診断までの時間を長引かせてしまい、患者さんの不利益につながることも……。)
特にSTEMI型心筋梗塞の場合などは、我々がエコーで丁寧に心臓の壁運動の評価をするより、急いで循環器科の先生にコンサルトするほうが大事か思います。
あと、エコーをやった後は、必ず患者さんとプローブのゼリーを拭いて、服もきれいに戻してあげて下さいね。
何を当たり前なことを……と思われる方も多いと思いますが、意外にもエコーをやりっぱなしで次の診療に行ってしまう先生の多いこと……患者さんが風邪をひいてしまいますよ。
半裸の状態の患者さんを見つけては、筆者はゼリー拭き&お腹(または胸)しまい係になっています。
なお、腹部エコーをする前に一つだけガッカリな情報をお伝えしておくと、左腹痛はCTじゃないと診断がつきにくい鑑別疾患が多いです。
⑤採血+点滴ルート
救急外来超初心者さんの場合、成人患者さんを採血する時はついでに輸液ルートをとったり、逆にルートをとる時にはついでに採血を一揃い採血スピッツに採っておくことをオススメします。
これは、あとからもう一方も必要になったときに、もう一回針を刺すこになると、は患者さんの苦痛を伴うからです。
この採血スピッツの血液を、実際に検査として提出するかは、後で判断しても良いです。
もし看護師さんなどに診療早期の段階でルート確保を依頼する場合は、
「一緒に血算と生化と血糖と凝固のスピッツを取っておいてください。血液検査に出すかは身体所見を見てから決めます」
と言えば、「ああ、患者さんの苦痛と採血の二度手間を省きたいんだな」と分かってもらえると思います。
なお、小児の場合は、救急外来超初心者さんなら勝手に採血する前に、上級医に相談したほうが良いでしょう。
(小児の採血は成人と比べてハードルが高い一大イベントですし、大量に採血すると貧血にもなりかねません。)
ルーチン採血項目
血液検査の一項目一項目には、調べる目的と意味があります。
なので筆者がここで「採血ではルーチンに○○の項目を取りましょう」などと言ったら、診断学のお好きな先生方に大目玉を食らってしまうことでしょう。
とはいえ、救急外来の超超初心者は、採血のときに何の血液検査をオーダーすれば過不足ないのかが分かりません。
あとから検査結果を見た上級医の先生に、
「これを調べたのにあれを調べてないの? それじゃ診断の役に立たないじゃない」
と片手落ちであることを指摘されたり、
「えっ ○○の検査なんて出しちゃったの!? 結果出るまで一週間かかるよ!? いつ誰が説明するの?」
なんて言われてしまうことも多々あります。
ということで、オーダーしてもやりすぎとは言われない、かつ足りなさすぎとも言われにくい、ある程度無難な血液検査項目を知っておくことは、きっとあなたの診療を少し楽にしてくれるでしょう。
採血オーダーの超初心者さんは、以下の検査項目をベースにして、必要に応じて項目を足したり引いたりすると楽だと思います。
救急外来でどのくらい検査をするかは、病院や医師によってもさじ加減が大きく違うので、あくまで参考ですが、お役に立つと嬉しいです。
ルーチンで行うことの多い検査項目(括弧内は蓋の色)
血算スピッツ(蓋が紫色)
WBC、RBC、Plt、(あれば機械カウントの白血球分画)
生化学スピッツ(蓋が茶色)
電解質:Na、K、Cl、Ca
肝胆道系:T-bil、ALP、AST、ALT、LDH、γ-GTP
腎機能:BUN、Cre、eGFR
膵酵素+唾液:Amy
筋肉:CK
炎症:CRP
血清浸透圧
血糖スピッツ(蓋が灰色)
BS(血糖)
↑意識障害のときは、先にデキスター(簡易血糖測定器)で測定すること!
上記の血算、生化、血糖の項目は、採血の際にルーチンに測っても、あまり「やり過ぎだ!」と怒られない……と思います。
もし怒られたら、ゴメンなさい!
(怒られた方は、怒られた理由と一緒にこちらまで教えてもらえると助かります。)
必要時に追加する採血項目
上記の基本的な採血項目に加えて、以下のようなある疾患を疑ったときに、よく追加する項目についてもざっと知っておきましょう。
必要時のみ検査する項目
凝固系スピッツ(蓋が黒)
PT-INR、ATPP、Fib、D-dimmer
必要となる例
・手術や外科処置が必要になりそうな人:
凝固系の異常の有無を評価
・ワーファリン内服中で出血疑いのとき:
特にPT-INRの延長を確認
・大動脈解離疑い・肺塞栓疑い:
D-dimerが感度高い(Wells criteriaなど要チェック)
・重症外傷:
凝固障害や、外傷の程度を見るのにも重要(FFP投与の目安にもなる)
<病状に応じて追加する検査項目>
・手術前:
血液型、不規則抗体T&S(タイプアンドスクリーン)、交差適合試験(クロスマッチ)
感染症検査:HBs抗原、梅毒TP抗体、HCV抗体、HIVなど(採血には同意書が必要)
・心筋梗塞を疑うとき:
CK-MB、高感度トロポニンTまたはI(感度・特異度が高い)
・心不全を疑うとき:
BNP(ただし心不全は基本臨床診断ですので、検査値を過信しすぎないようにしましょう)
・肝胆道系疾患を疑うとき:
D-Bil
・膵炎を疑うとき:
P-Amy
・肝性脳症を疑うとき(意識障害+肝疾患既往または黄疸)
アンモニア
・慢性期の消耗性疾患を疑うとき、Caの濃度補正が必要なとき、重症肝機能障害のとき
Alb、TP
・感染症を疑うとき(発熱、高齢者の全身倦怠感など)
血液培養
こんなところでしょうか。
検査をし忘れて後から検査項目を追加する場合、患者さんにもう一度針を刺して採血が必要になることがあります。
患者さんに何度も痛い思いをさせないよう、できる限り配慮しましょう。
採血は来院後すぐにやることが多いので、そのときに他の項目も調べるかどうかまだ分からなければ、先述のように検査オーダーはせずにスピッツに採血だけして、名前を書いて患者さんの診療が終わるまで取っておく、という裏ワザもアリです。
ただし長期に保存すると検査値が変わってしまう項目もありますので、使用の要否は早めに決めたいところですね。
⑥尿検査
色々な用途のある検査ですが、救急外来では特に、膀胱炎、腎盂腎炎、尿管結石等の診断やケトン体の有無の評価によく使います。
あと、なんと言っても忘れてはならないのが妊娠反応検査ですね。
ルーチン尿検査項目
尿検査でルーチン的に調べる項目は、尿定性と尿沈渣(尿中成分)です。
この二つで尿路感染を疑う異常所見(WBC+以上、亜硝酸+など)があれば、尿のグラム染色も積極的に行いましょう。
女性の場合、無症候性細菌尿やコンタミ(雑菌の混入)も多いので、尿中に細菌がいても症状(発熱、CVA叩打痛、排尿時痛など)がなければ、尿路感染症と決めつけてはいけません。
本当に抗菌薬治療が必要なのか、しっかりと評価しましょう。
ただし妊婦さんの無症候性細菌尿は腎盂腎炎に発展しやすく、低出生体重児や早産のリスクが高まることから、抗菌薬での治療対象となります。
妊娠反応検査
妊娠可能年齢女性の腹痛は、原則的に全例妊娠反応検査を行いましょう!
ギネス記録によると自然妊娠が最年少が5歳、最年長が57歳だそうなので、これらの間の女性は理論上、妊娠可能年齢となります。
妊娠反応検査は、命に関わる異所性妊娠を除外する目的で行います。
疾患の確率はそれほど高くないですが、見逃した場合のリスクが大きすぎるので、腹痛の妊娠可能年齢女性には全例やるくらいの気持ちでいたほうが無難です。
しかし保険外診療扱いにされてしまう病院も多いので、検査する前に患者さんの同意が必要です。
これは筆者のオリジナルですが、妊娠反応検査を患者さんにお願いするときのコツは、先に妊娠の可能性を聞かないことです。
先に妊娠の可能性を質問して患者さんに否定された後に「妊娠反応検査をしたい」と言うと、どれだけ検査の重要性を説明したところで「私の話を信じてもらえていない」と思われてしまいます。
それよりも先に「この後必要になるかもしれない画像検査を行うには、放射線被曝の関係で妊娠していないことを確認する必要があるのですが、ご協力頂けないでしょうか?」と尋ねてしまえば、「分かりました」と返事が返ってくることがほとんどです。
少なくと筆者は、これで断られたことは一度もありません。
診断に妊娠や性交歴などが必要な場合は、検査の承諾を得たあとで、普通に問診で確認すればOKです。
(なお筆者自身はやったことがないのですが、病院によっては、どうしても同意が取れない場合などに、こっそり検査してコストを病院持ちにしてもらうことも可能だったり……するらしいので予め確認をしておきましょう。)
⑦画像検査:レントゲン、CT、MRI
画像診断について見ていきましょう。
救急外来でよく行う3大画像検査といえば、レントゲン、CT、MRIですね。
レントゲン
以下にレントゲンで診ることができる所見を挙げてみます。
胸部レントゲン:
主に、肺炎、心不全、気胸、胸水・血胸、腹腔内fee airを見るのに使います
腹部レントゲン:
イレウス(ニボー像)、便貯留などを見るのに使います
骨折用レントゲン:
骨の輪郭を一筆書きで追えないところ、左右差があるところは骨折を疑います
軟部組織なども見ましょう
※レントゲンに映らない骨折も多いです!
胸部レントゲンは様々な場面で役立ちますが、腹部レントゲンについては、初心者の目には、残念ながら大した情報量はないというのが本音です。
(腹腔内のfree airも、評価するなら胸部の方が見やすいです。)
ただし手術になる予定の症例なら、術後に腹部レントゲンを撮りつつ経過をみることが多いので、比較対象として初診時のレントゲンを撮っておくのが外科の先生にとって親切だと思います。
また、骨折はあくまでも臨床診断であり、ピンポイントな圧痛の有無や、動作時(特に荷重時)の自発痛から診断します。
レントゲン(やときにCTにすら)に映らない骨折は本当に山ほどあります!
筆者は、身体所見から骨折を疑ったけれど画像では明らかな骨折の所見がなかった軽症の患者さんには「レントゲンで映るほどの大きな骨折は見つかりませんでしたが、中には画像に映らない骨折もあります」と言っています。
受傷部位のシーネ固定を提案し、同意があれば固定したうえで「明日整形外科でもう一度評価してもらいましょう」と予約を取るか、整形外科への紹介状を書くことをお勧めします。
(これは軽症の場合の対処法です。
高エネルギー事故など重症の可能性がある患者さんの場合はレントゲンだけで帰宅にせず、必要に応じて造影CTなども撮像して、きちんと外傷を評価して下さいね。)
CTとMRI
この2つは、まずは病院での撮影ルールに従いましょう。
病院ごとに、「単純CTは研修医でもオーダーできるが、造影CTは上級医の検査室への付き添いが必要」、「MRIは専門医以上しかオーダーできない」、「夜間は放射線科医が先にエコーをしてからでなければ画像の精査はできない」など、独自ルールが存在することがあります。
検査部のマンパワー(特に夜間)など病院組織の複合的な要素によって決まっていることが多いので、最初にきちんと確認しておく必要があります。
そしてCT、MRIを撮影する際の注意点ですが、身体所見、検査所見で探す疾患を決めてから撮りましょう。
「撮影する」ということはイコール「読影する」ということで、読影もできないのに撮影すると「見逃した疾患の動かぬ証拠」だけが残ってしまいます。
画像検査はなんとなくでオーダーしないようにしましょうね。
(とはいえ「抗凝固薬を内服している認知症の高齢者の、ふらつき転倒による頭部外傷と熱源不明の高熱」みたいな、結果的に全身(=頭頸部+胸腹部)CTを取らざるを得ない状況もあり、必要な検査を省くのも適切とは言えません……悩ましいところです。)
またMRIは、1回で撮像できる範囲が非常に狭いので、身体所見や病歴から、どこを撮影するのかピンポイントに選ぶ必要があります。
画像検査室は、別名“死のトンネル”と呼ばれて救急医たちに恐れられています。
患者さんが密室に入ってしまい傍に医療者がいないたま急変の発見が遅れる、検査台は狭く、治療器具も限られているため、急変時の対応が上手くできず遅れるなど、理由は様々です。
その中でも特に焦るのが、嘔吐とショックです。
嘔吐
患者さんは検査台の上で仰向けになっているので、嘔吐すると一気に窒息してしまいます。
特にアルコール多飲など意識障害の患者さんに多いですが、誰にでも起こり得ます。
患者さんの顔を常によく見ておき、万一顔をしかめたり、えづきはじめたときは、すぐに顔または体全体を横に向けます。
このときあなたの手で持つのは、患者さんの頭ではなく、肩から頸です。
頭だけを持って慌てて頸をグキッと回すと、外傷のリスクがあるためです。
あなたの両手を患者さんの両肩下に差し入れ、両腕で患者さんの頸を下から軽く挟むように支え、肩ごと持ち上げて顔を横に向けます。
これは患者さんの顔元にいるあなたにしかできないことです。
「あれ……ちょっと嘔吐しそうかも……?」と思ったときは、必ずやって下さい。空振りなら御の字です。
ショック
病状が進行しつつある患者さんの場合、検査台の上で血圧低下(ショック)を起こしたというオカレンスも、たびたび報告にあがります。
画像検査には、思っている以上に時間がかかります。
短時間で済むCTでも、移動を含めれば最低でも10分はかかることが多いですし(一部のハイブリッド型ERなどを除く)、MRI(撮像時間だけで15分前後)などは、移動や待ち時間を含めて30分以上かかることも普通です。
バイタルサインに異常のある患者さんはもちろん、バイタルが崩れる可能性のある患者さんも、あらかじめその対処をせずに検査に連れて行くのはキケンです!
それでも多くの場合検査は必要だと思うので、上級医と相談して検査室へ行くタイミングを図りましょう。
放射線画像の評価のしかた
まずは何より、過去画像との比較が最重要です。
過去の画像がないか、電子カルテや、紹介患者さんであればCD-ROMを探しましょう。
次にあくまでざっくりと、CTで評価できるものを確認しておきましょう。
頭部CT:
○ 急性期出血、古い脳梗塞、脳内占拠病変の有無を評価できます
× 新鮮脳梗塞は評価できません
(動脈内に新規血栓が見えたりすることもありますが……MRIのDWIでないと厳しいです)
頚椎CT(外傷のとき):
頚椎単純レントゲンのABCDE評価(ERマニュアル系の本にはたいてい載っている)をまずは必ず確認しましょう
ならレントゲンでもいいやんと言われそうですが、CTの方が読影しやすいのは事実です
上腹骨盤CT:
包み隠さず言ってしまえば、初心者が一人で完璧に読影するのはかなり困難です
上級医にも一緒に見てもらいましょう
筆者は未だに腹部CTの読影に苦手意識があるので、撮った場合は目をさらにして繰り返し読影します。
そして気になる所見があれば、日中なら放射線科の先生のところに、夜間なら検査技師さんのところに相談に行きます。
読影レポートをつける放射線科の先生などからは、「診断に有用な臨床所見が聞けるから」と意外と歓迎してもらえることが多いです。
なお放射線科の読影がつく病院では、(たとえそれが翌日になっても)必ずレポートをチェックしましょう。
そこには診断の見逃しだけでなく、「偶発的に見つかった腫瘍性病変」など、地雷がいっぱい(!)です。
見過ごすと訴訟のもとになります。
(余談ですが、腹部CTの読み方を練習したければ、腹部CT読影練習サイトの「急性腹症のCTが演習問題」がオススメです。
教育的な放射線科の先生が、画像とともに診断の仕方を詳しく解説して下さっています。)
まとめ
以上、診察で使えるあなたの持つ「7つ道具」を、一気呵成に説明しました。
診察で使えるあなたの「7つ道具」
①あなた自身の身体の感覚 :手、鼻、目、耳
②聴診器
③心電図
④エコー
⑤採血+点滴ルート
⑥尿検査
⑦画像検査:レントゲン、CT、MRI
長くなってしまい大変だったと思いますが、ここまで読めた方は、確実に明日からの診療が一歩前進すると思います!
少しでも救急外来で働く皆さんと、救急外来を受診する患者さんの力になれれば幸いです。
本当にお疲れ様でした。
今日はもう寝て、明日から本気出しましょう。
参考文献
- 皿谷健,「看護roo!呼吸音と副雑音の分類」, https://www.kango-roo.com/learning/2555/
- 古谷伸之(編集), 「診察と手技がみえる (vol.1) 単行本」, 2007
- 林寛之, 「第14回『非典型が典型!』なんて! killer chest painの騙し方教えます」, JBスクエア, https://www.jbpo.or.jp/med/jb_square/s_infection/dictionary/di14/01.php
- 増井伸高, 「Dr.増井の心電図ハンティング」, CareNet TV, 2020
- 林寛之, 「平成30年度日本内科学会生涯教育講演会561, 日本内科学会雑誌108巻3号」, https://www.jstage.jst.go.jp/article/naika/108/3/108_557/_pdf
- Sheifer SE et al. Unrecognized myocardial infarction. Ann Intern Med. 2001;135(9):801-811.
- 日本外傷学会外傷初期診療ガイドライン改訂第3版編集委員会. 外傷初期診療ガイドライン. 改訂第3版. へるす出版, 東京, 2008, p71-94.
- 亀田 徹, 日本超音波医学会シンポジウム,「Point-of-care ultrasoundによる気胸の診断」, https://www.jsum.or.jp/journals/30306, 2017
- 野中航仁, 日本超音波医学会シンポジウム,「卵巣茎捻転および精巣捻転症の超音波診断」, https://www.jsum.or.jp/journals/32428, 2019
- Smaill FM et.al. Antibiotics for asymptomatic bacteriuria in pregnancy. Cochrane Database Syst Rev. 2019.
※本ブログに記載している患者さんの症例は、個人情報の漏洩に繋がることがないよう、複数の患者さんの病歴を混ぜて医学的に重要なエッセンスだけを抽出したり、臨床的判断に影響しないフェイクを加えています。