動脈血液ガスは救急外来ではよく見る検査の一つです。
呼吸や酸塩基平衡が見たいときに積極的に動脈血を採る……ことより、静脈採血が難しい患者さんに動脈採血をして、ついでに検査結果を見ることの方が多いのは筆者だけでしょうか?
特に後者のようなシチュエーションでは、血液ガスをなんとな~く読んでいる……なんて人も多いような気がします。
ぶっちゃけ、筆者も血液ガスの読み方がちょっと苦手です……というかエセ理系のため、数字全般が苦手です……。
というわけで、復習がてら、血液ガスの読み方についてまとめてみました。
なお、筆者の血液ガスの読み方のベースは、後期研修医時代に受講した田中竜馬先生の血液ガスの講義です。
他にもいくつかの文献を参考にしていますが、田中先生の名著「竜馬先生の血液ガス白熱講義150分」を読み直しつつ、筆者自身の知識も交えてまとめた内容になります。
血液ガスが苦手な人は、一緒に勉強してもらえれば嬉しいです。
本記事は、
- 血液ガスをなんとなく読んでいる状態から脱却したい
- 手元にある血液ガスを読めるようになりたい
- 患者さんの鑑別診断に血液ガスを利用したい
そんな方たちのための記事になっています。
一つでも当てはまった方も、一つも当てはまらなかった方も、血液ガス採取にに携わる方なら読んで損のない内容だと思います。
血液ガスを読むのが苦手な筆者が噛み砕いて、超シンプルな血液ガスの読み方をお伝えしますので、ぜひお楽しみください。
血液ガスの基準値
まず最初に基準値を見てしまいましょう。
これは、普通の空気を吸って吐いてしているときの値です。(酸素投与時は値が変わります。)
これから血液ガスを読む上で使うのは下記のうち「目安の数値」のほうです。
あ、自分で血液ガスを計算評価できるようになると自然と覚えてくるので、今は無理して記憶しなくても大丈夫です。
現代はスマートフォンという便利な文明の利器があるのですから、このページをブックマークでもして、カンニングできるようにしておけば十分でしょう。
動脈血液ガス | 目安の数値 | 一般的な基準値の範囲 |
評価pH | 7.40 | 7.35~7.45 |
PaO2 | (なし) | 80~100 mmHg |
PaCO2 | 40 mmHg | 35~45 mmHg |
HCO3- | 24 mEq/L | 22~26 mEq/L |
AG | 12 mEq/L | 10~14 mEq/L |
おまけ:
アルブミンAlb 基準値 4 g/dL
乳酸Lac 基準値0.5~1.6mmol/L(4.5~14.4mg/dL)←ショックの指標として重要!
ちなみに静脈血では、pHは-0.033、HCO3–は約1mEq/L高くなると言われていますが、今回は動脈血液ガスに絞ってお話します。
これらの項目のうち、
呼吸を評価するには、PaO2と PaCO2の2つを、
酸塩基平衡を評価するには、pH、PaCO2、HCO3の3つを
見ます。
PaCO2は2回見るところがミソですね。
以下は血液ガスの読み方を、大きく「呼吸」と「酸塩基平衡」に分けて解説していきます。
ただしちょっとその前に、PaCO2などの用語の表記の仕方の説明をしておきましょう。
分かっている人はさくっと飛ばして次へ行って下さい。
P○●●などの表記の仕方
まず最初のPはPressureプレッシャー(分圧)の略です。
圧力なので、単位はmmHgですね。
このPの後の小さい文字○は、測定する場所を示します。
これが大文字だと空気の中の分圧を、小文字だと血液の中の分圧を表しています。
その後に続く●●は、測定する対象となる気体です。
例えば、PAO2なら肺胞酸素分圧、PaCO2なら動脈血二酸化炭素分圧を示します。
似たものとして単位が%である、酸素飽和度(サチュレーション)があります。
皆さんお馴染みのパルスオキシメーターで測るSpO2などがそれですね。
S がサチュレーションの略で、酸素の飽和度を割合(%)で示します。
そして小文字のpはパルスオキシメーターの略です。
血液ガスの読み方、「呼吸」と「酸塩基平衡」のうち、まずは「呼吸」から見ていきましょう。
呼吸を評価してみよう
いきなりですけど「呼吸」って何でしたっけ?
中学校で習った知識を思い出すに、酸素を吸って二酸化炭素を吐き出すことでしたよね。
肺で酸素と二酸化炭素を交換することを、そのまま「ガス交換」と呼びます。
でも2つのことを同時に考えるのって、ちょっと難しくないですか?
ここからは、酸素O2と二酸化炭素CO2を分けて考えちゃいましょう。
呼吸は酸素化と換気の2つに分ける
身体が酸素O2を受け取ることを「酸素化」、二酸化炭素CO2を吐き出すことを「換気」と呼びます。
呼吸はこの「酸素化」と「換気」の2種類に分けて考えるととてもわかり易いです。
それぞれ、動脈血中の酸素濃度PaO2と二酸化炭素濃度PaCO2の情報をもとにほぼリアルタイムで呼吸の状態を知ることができます。
呼吸は、血中酸素濃度PaO2などから分かる酸素化と、 血中二酸化炭素濃度PaCO2から分かる換気の2種類に分けて考えればOKです。
呼吸は2つに分ける
① 酸素化
→身体が酸素を受け取れているのかを見る
② 換気
→身体が二酸化炭素が吐き出せているかを見る
カンタンな「換気」(二酸化炭素CO2を吐くこと)
まずは換気について考えてみましょう。
換気は二酸化炭素がどのくらい吐けているかを見ればOKです。
換気の評価は、酸素化の評価よりも簡単です。
なぜなら血中の二酸化炭素はあっという間に肺胞内へ拡散されてしまうため、肺胞内の二酸化炭素分圧PACO2と動脈血の二酸化炭素分圧 PaCO2は全く同じになるからです。
つまりPACO2= PaCO2となるため、換気を考えることは、動脈血中にどれくらいの二酸化炭素分圧PaCO2があるかを考えることに等しくなります。
肺胞内の二酸化炭素分圧と動脈血の二酸化炭素分圧は同じ
PACO2= PaCO2
PACO2の基準値は35~45mmHgなので、PaCO2 >45mmHgなら「換気が悪い」と評価することができます。
ちょっとヤヤコシイ酸素化(酸素O2を受け取ること)
次に酸素化について考えてみましょう。
酸素は、二酸化炭素のように簡単に拡散はしません。
ということは、肺胞内の酸化炭素分圧PAO2と動脈血の酸化炭素分圧 PaO2は同じではありません。
一般的には、外の空気のほうが酸素が多いため、肺胞酸素分圧PAO2のほうが動脈血酸素分圧 PaO2より多いことになります。
肺胞内の酸素分圧と動脈血の酸素分圧は違う
PAO2≠PaO2
(PAO2>PaO2)
このため、酸素化を考えるには、肺胞内にあった酸素が、どのくらい血液内に取り込まれたかを考える必要があります。
つまり、肺胞酸素分圧PAO2と動脈血酸素分圧 PaO2の差を見る必要があり、これをA-aDO2と呼びます。
大文字のAは気体、小文字のaは動脈血、のことでしたね。
DはDifferene(差)の略で、 O2はそのまま酸素の意です。
呼吸の酸素化を評価するには、この肺胞と動脈血での酸素分圧の差のA-aDO2、すなわちPAO2-PaO2を計算すれば良いことになります。
酸素化の評価=肺胞酸素分圧PAO2と動脈血酸素分圧 PaO2の差
A-aDO2=PAO2-PaO2
動脈血中の酸素分圧は、血液ガスで測定するPaO2そのものなので、あとは肺胞の中の酸素の分圧PAO2を計算で推定できれば良いですね。
これは「肺胞気式」という以下の式で計算できます。
肺胞気式
PAO2=(760-47)×0.21-PaCO2/0.8
この式の前半部分は、以下の具体的な数値から求められています。
海抜0mでの大気圧=760
海抜0mでの水蒸気圧(呼気による加湿)=47
大気中に占める酸素の割合=0.21
つまり、前半の(760-47)×0.21の部分は、大気圧760mmHgから水蒸気の分47mmHgを引いたうちの21%が酸素分圧、という意味です。
計算してしまうと150になります。
この数値は標高(海抜)によって変わりますが、日本ではあまり高山地域で診療をすることは多くないのでそのまま覚えてしまっても大丈夫でしょう。
後半の-PaCO2/0.8の部分は、前半の大気中の酸素分圧から、使われた(血液中に取り込まれた)酸素分圧を引いています。
えっ使われた酸素分圧なんてわかるの?
……という声が聞こえてきそうですが、ありがたいことに吐き出された二酸化炭素の量から計算することができます。
大気中の二酸化炭素は0.03%と非常に少ないので、今回は無視してしまうと、吐いた二酸化炭素の量=肺胞内の二酸化炭素量となります。
二酸化炭素8個は酸素10個と交換されるため、CO2と O2の交換の比率は8:10となります。
これを呼吸商Respiratory Quotient(RQ)と呼びます。
ここから、使われた(血液中に取り込まれた)酸素分圧=PACO2/0.8となります。
CO2は肺であっという間に拡散されるため、肺胞の中のPACO2と動脈血の中のPaCO2は同じなのでしたね。
つまりPACO2=PaCO2なので、
使われた(血液中に取り込まれた)酸素分圧=PACO2/0.8=PaCO2/0.8となります。
使われた酸素分圧=PaCO2/0.8
これで無事、動脈血ガスの結果から得られる値だけで、肺胞内の酸素と二酸化炭素の分圧が分かることになりました。
最後にまとめておきましょう。
呼吸の酸素化を評価するには、PAO2とPaO2の差(A-aDO2)を見るのでした。
A-aDO2の正常値は10mmHg以下です。
A-aDO2≧10mmHgの場合、酸素化がきちんとできていない=肺が悪いと判断します。
(より正確にいうと、A-aDO2の基準準値は≦年齢×0.3mmHgですが、今回は簡便のために10mmHgとさせて下さい。)
酸素化の評価
→肺胞酸素分圧PAO2と動脈血酸素分圧 PaO2の差を見る
A-aDO2=PAO2* – PaO2
≧10mmHgなら酸素化が悪い
=肺が悪い
*肺胞気式より
PAO2=(760-47)×0.21-PaCO2/0.8
呼吸のシステムは3つのパートで構成される
一言で「呼吸」といっても、人体の中では複雑な機構が働いています。
ここまで「呼吸」をガス交換の観点から、二酸化炭素CO2を吐き出す「換気」と身体が酸素O2を受け取ることを「酸素化」に分けて考えてきました。
一方呼吸のシステムは、解剖学的に分けることもできます。
といっても「換気」「酸素化」の分け方と結果的にはそっくり。
換気に携わる部位を2つに分けただけで、呼吸に関わる部分はそのまま1つの、合計3パートです。
呼吸の解剖学的分類
分類 | コントロール系 | 駆動系 | ガス交換系 |
臓器 | 中枢(脳) | 脊髄 ↓ 末梢神経 ↓ 呼吸筋 胸壁 気道 | 肺 |
役割 | 呼吸を調整 | 筋肉を動かす、空気の通り道 | 酸素O2と二酸化炭素CO2を交換 |
問題が起きたときに 動脈血中で主に変わるもの | PaCO2↑ (換気に問題がある) | PaCO2↑ (換気に問題がある) | PaO2↓ (酸素化に問題がある) |
上の表の中身を見てみましょう。
換気:PaCO2上昇=コントロール系&駆動系の異常
先述のように二酸化炭素はとても拡散しやすく、PACO2とPaCO2は同じ値となります。
そのためPaCO2の上昇はPACO2の上昇と同じであり、肺胞まで新鮮な空気が入らなかったことを意味します。
つまりPaCO2の上昇は、肺のガス交換以外、コントロール系と駆動系に病気があることを教えてくれています。
このような換気に問題がある状態を「肺胞低換気」と呼びます。
(身体が二酸化炭素CO2を吐き出すことは「換気」と呼ぶのだから納得です。)
「一口に『呼吸に問題がある』と言っても、肺の病気とは限らない」というのは、初学者が呼吸について学ぶ際、最初につまづく点です。
恥ずかしながら筆者も、研修医の頃はごっちゃにしておりました……。
酸素化:PaO2低下=ガス交換系の異常
PaO2が低い場合、酸素がうまく血液に取り込めていない状態なので、ガス交換系=肺が悪いことが分かります。
肺が悪いことによる低酸素血症の原因は、呼吸整理学的に3つに分類されます。
V/Qミスマッチ、拡散障害、そしてシャントです。
低酸素血症の原因3つ
・V/Qミスマッチ
・拡散障害
・シャント
多くの肺疾患は、「V/Q(換気血流比)ミスマッチ」を起こします。
このVは1つのガス交換単位における肺胞換気量/時間を表し、Qは同じく毛細血管血流量/時間を表します。
ミスマッチとは、この2つの量のバランスが悪く、酸素の受け渡しの効率が悪い状態のことです。
一方の「拡散障害」は、肺胞の壁が病変により厚くなって、肺胞内から血中への酸素の通りが悪くなるようなイメージです。
間質性肺炎やCOPDなどで起こります。
しかし今回はこの2つよりも、最後の「シャント」が、臨床現場で鑑別では役に立つので知っておくと良いでしょう。
酸素投与を行ってもPaO2やSpO2があまり上がらない場合、まずはシャントを考えます。
シャントとは?
肺疾患によるシャントは、 ARDS(Acute respiratory distress syndrome)や肺水腫など、肺が水浸しまたは潰れた状態(無気肺)になる疾患で起こります。
これらの疾患では、レントゲンやCTでは、べったりと白く映ることが多いです。
(ただし脱水状態の時は、白い陰影が目立たないこともあります。)
肺は血液が空気と触れる唯一の場所で、血液はそこで酸素を受け取ります。
しかしARDSや肺水腫などにより、肺が水浸しまたは潰れた状態になると、血液が空気に触れないまま肺を素通りしてしまい、酸素を受け取れなくなります。
全身の静脈から呼吸のため肺へやってきた血液が、酸素を受け取らないまま全身の臓器へ戻って行くため、低酸素血症を引き起こします。
このようにシャントでは、いくら酸素を投与しても肝心の血液が酸素に触れられないので、あまりSpO2やPaO2も改善しないという先述の特徴を持つことになるわけです。
シャントはARDSのほか、動静脈奇形などでも起こります。
どこかで習ったことのある方も多いかと思いますが、シャントの原因となる臓器は、肺の他に心臓があります。
心臓では右→左シャントを起こすような孔が開いている病態で生じます。
例として、卵円孔開存、心房中隔欠損、心室中隔欠損などが挙げられます。
酸素投与に反応が悪けれど、レントゲンやCTなどで肺がそれほど悪くなさそうなときは、このような心血管系のシャントも疑ってみましょう。
換気・酸素化の評価のまとめ
呼吸不全評価としての、換気と酸素化の評価の仕方をまとめておきましょう。
換気の評価
動脈血中二酸化炭素分圧PaCO2で評価
PACO2= PaCO2
>45mmHgなら換気が悪い
=肺以外(コントロール系または駆動系)が悪い
酸素化の評価
→肺胞酸素分圧PAO2と動脈血酸素分圧 PaO2の差を見る
A-aDO2=PAO2* – PaO2
≧10mmHgなら酸素化が悪い
=肺が悪い
*肺胞気式より
PAO2=(760-47)×0.21-PaCO2/0.8
人工呼吸中の場合:P/F比を見る
歩いてきた受診患者さんであれば、酸素投与前に血液ガスを採ることができますが、救急搬送など、すでに酸素投与が開始されていることも多いですよね。
特に挿管されている場合は、P/F比で酸素化の状態を評価します。
P/F比は、PaO2/FIO2の比の略です。
酸素化の程度から重症度をみる指標としてICUなどでもよく用いられています。
以下のように重症度を判定します。
PaO2/FIO2比と酸素化の重症度
P/F>400=正常範囲
P/Fが201~300=軽症
P/Fが101~200=中等症
P/F<100=重症
呼吸不全患者評価のまとめ
血液ガスでの呼吸不全の評価全体のおさらいです。
やるべきことをまとめてみました。
PaCO2>45mmHg↑=肺以外(コントロール系または駆動系)に問題がある[Ⅱ型呼吸不全]
→STEP2へ
PaCO2≦45mmHg→=呼吸系と駆動系は大丈夫[Ⅰ型呼吸不全]
→STEP3へ
A-aDO2>10mmHg↑=肺に問題がある
A-aDO2正常<10mmHg→=肺は大丈夫
SpO2上昇↑=シャント以外の肺の問題
SpO2低下↓=肺のシャントの問題
P/F比
P/F>400=正常範囲
P/Fが201~300=軽症
P/Fが101~200=中等症
P/F<100=重症
血液ガスの呼吸(換気と酸素化)の評価については、ご納得頂けたでしょうか?
それでは次に、満を持して酸塩基平衡について見ていきましょう。
酸塩基平衡を評価してみよう
①pHを確認( 「アシデミア」か「アルカレミア」か)
血液のpHは、以下のヘンダーソン・ハッセルバルヒ(Henderson-hasselbalch)の式から求められます。
pH=6.1+log(HCO3–)/(0.03PaCO2)
これは特に覚える必要はありません。
pHは、腎臓で調整される(代謝性)HCO3–と肺で調整される(呼吸性)PaCO2から求められる、ということだけイメージできればOKです。
pHの数値から酸塩基平衡を「アシデミア」、「アルカレミア」に分けます。
pH<7.35なら「アシデミア」
pH>7.45なら「アルカレミア」
と呼び、これらの間(7.35≦pH≦7.45)なら「正常」と考えてOKです。
②PaCO2とHCO3-を確認し、①の原因を探す
次に①の「アシデミア」または「アルカレミア」の原因を探します。
「アシデミア」のとき、PaCO2が上昇↑(>45)していれば呼吸性アシドーシス
HCO3–が低下↓(<22)していれば代謝性アシドーシス
「アルカレミア」のとき、PaCO2が低下↓(<35)していれば呼吸性アルカローシス
HCO3–が上昇↑(>26)していれば代謝性アルカローシス
と判断すればOKです。
③代償の計算をする
ここからちょっと苦手になる人が増えるので頑張りましょう。
一度丁寧に考えれば実はわりとシンプルで、さほど難しくはありません。
代償とは、pHの基準値(約7.4)からの偏りを、元に戻そうとする働きです。
腎臓(尿=代謝)で調整されるHCO3–の異常は、肺(呼吸)のPaCO2によって調整され、
肺(呼吸)で調整されるPaCO2の異常は、腎臓(尿=代謝)のHCO3–によって調整されます。
HCO3–とPaCO2は、互いに補い合おうとする関係、というわけです。
例えば、HCO3–が低下すると代謝性アシドーシスとなるため、身体はPaCO2を低下させpHを上げようとします。
実際の代謝性アシドーシスの患者さんでは、無意識に呼吸回数や一回換気量を増やすことで、血中のCO2を飛ばそうとします。
例えば学生の時分に「糖尿病性ケトアシドーシス」とセットで習った「クスマウルKussmaul大呼吸」は、速くて深い呼吸をすることでPaCO2を低下させ、血液のpHを正常化しようとしていたのですね。
このように色んな領域の知識が繋がってくると、勉強も面白くなってきますね。
さて、「アシデミア」「アルカレミア」のとき、代償反応はそれぞれ以下のように動きます。
「アシデミア」のとき
HCO3–が低下↓の代謝性アシドーシスなら、 代償としてPaCO2も低下↓
PaCO2が上昇↑の呼吸性アシドーシスなら、代償としてHCO3–も上昇↑
「アルカレミア」のとき
HCO3–が上昇↑の代謝性アルカローシスなら、 代償としてPaCO2も上昇↑
PaCO2が低下↓の呼吸性アルカローシスなら 、 代償としてHCO3–も低下↓
というように、 HCO3–とPaCO2は同じ向き(片方が増えればもう片方も増え、片方が減ればもう片方も減る)に動きます。
ただし、肺(呼吸)によるPaCO2の代償は速く、腎臓(尿=代謝)によるHCO3–の代償は遅い、という特徴があります。
まぁ呼吸するのより尿を作るほうが遅いのは、当たり前ですよね。
この「尿はゆっくりの原則」(筆者が勝手に命名)により、腎臓(尿=代謝)により代償できるHCO3–の量は、急性期より慢性期で増えます。
なお、この急性期か慢性期かは、臨床経過から判断します。
ER医としては声を大にして言いたいところですが、やっぱり病歴が一番大事ですよね。
HCO3–とPaCO2それぞれの変化と、その代償の対応表
HCO3–とPaCO2それぞれの変化と、その代償の割合は以下の通りです。
原因 HCO3– 1mEq/Lの変化 | 代償性反応 PaCO2の反応 | ||
代謝性 | アシドーシス | 1mEq/L 低下↓ | 1.2mmHg↓ |
アルカローシス | 1mEq/L 上昇↑ | 0.7mmHg↑ | |
原因 PaCO2 10mmHgの変化 | 代償性反応 HCO3–の反応 | ||
呼吸性 | アシドーシス | 10mmHg 上昇↑ | 急性期 1mEq/L↑ 慢性期 3.5mEq/L↑ |
アルカローシス | 10mmHg 低下↓ | 急性期 2mEq/L↓ 慢性期 4mEq/L以上↓ | |
筆者はどうにもこの対応表を覚えられないので、スマホに入れてすぐに見られるようにしています。
自分用メモをを作るのが面倒な人は、このページをブックマークしておくと便利かもしれません。
④他に酸塩基平衡異常はないか?
代償の目安を計算することで、正しい代償が行われているのかを判断できます。
正しい代償でない場合は、他の酸塩基平衡が加わっている(複数の酸塩基平衡異常がある)と考えることができます。
ただし代償の数値は完璧に計算通りとはいかないので、計算値の±2くらいは正しい代償の範囲内としておきましょう。
このとき忘れてはならないポイントとして、代償が行き過ぎる(上記の対応表の数値以上に代償反応が上がる)ことはないことはおさえておきましょう。
したがって、pH7.4を通り越してしまうこともありません。
一見代償しすぎているように見える場合は、先ほどと同様に、他の酸塩基平衡異常も加わっている(複数の酸塩基平衡異常がある)と考えましょう。
例えば、「アルカレミア」の呼吸性アルカローシスで、HCO3–が代償分以上に減っている場合は、「HCO3–が減少する病態=代謝性アシドーシスもある」というふうに考えます。
これは例えば、アスピリン中毒で薬による代謝性アシドーシスを起こしつつ、呼吸回数が早くなっているときなどに典型的です。
代謝性アルカローシスの原因
代謝性アルカローシスの原因は大別して、H+が大きく体外へ出て行った場合と、それ以外に分けられます。
前者の場合がほとんどで、嘔吐(またはNGチューブによる胃液の吸引)と、利尿薬(ループ系、サイアザイド系)の2つです。
後者のそれ以外の場合としては、人工呼吸による高二酸化炭素血症の急激な補正や、クロライド不応性(原発性アルドステロン症、Barter病)などがあります。
代謝性アシドーシスの原因
代謝性異常の中では一番多く、鑑別疾患も様々です。
病歴のほか、血液ガスの結果から算出されるアニオンギャップAnion Gap(AG)からも鑑別を絞ることができます。
(AGは、血液ガスの検査結果に載っていることも多いですが、自分でも簡単に計算できます。)
代謝性アシドーシスは考えることが多いので、まずはアニオンギャップAGで分類すると便利です。
AGについて勉強してから、代謝性アシドーシスについてもう少し解説します。
⑤ アニオンギャップAGを計算(代謝性アシドーシスを探す)
さて、アニオンギャップAnion Gap(AG)とやらは、代謝性アシドーシスの鑑別に役立つのでしたね。
さらにいうと、実は一見代謝性アシドーシスがないように見える場合も、AG>12なら「代謝性アシドーシス」と判断することができます。
ではこのアニオンギャップとは何でしたっけ?
アニオンとは、ずばり陰イオンのことです。
(ちなみに陽イオンはカチオンと呼ばれます。)
そしてアニオンギャップとは「陽イオンと陰イオンの差」という意味です。
さて、陽イオンと陰イオンは、その大多数を占めるNa+、Cl–、HCO3–とその他のイオンと大雑把に分けることができます。
簡単に式で表現すると、以下のようになりますね。
陽イオン=Na++その他(K+など)
陰イオン=Cl–+HCO3–+その他(アルブミンなど)
陽イオンと陰イオンは、本来釣り合っています。
つまり、陽イオンと陰イオンは同量であり、差はありません。
ではアニオンギャップAGとは……?
アニオンギャップAGは、この上の式の「その他」以外のイオン( つまり「Na+」vs「Cl–とHCO3–」)だけの差を見ています。
AG=Na+-(Cl–+HCO3–)
目安の数値12、基準値の範囲10~14mEq/L
ただし先述の通り、AGに含まれる陰イオンはアルブミンAlbがかなりの割合を占めており、低アルブミン血症のときは、AGが下がってしまいます。
血清アルブミンAlbの基準値は4なので、それ以下の場合はAGを計算するときに補正しないといけません。
血清Albが1g/dL低下するごとにAGは2.5mEq/L下がるので、補正AGは以下の式で求めることができます。
補正AG=AG+2.5×(4-血清Alb値)
代謝性アシドーシスの原因
代謝性アシドーシスは、アニオンギャップAGの値をもとに分類できます。
アニオンギャップAGは、正常か、増加するかの2パターンです。
それぞれのパターンごとに見てみましょう。
アニオンギャップ正常の代謝性アシドーシス
代謝性アシドーシスなので当然HCO3–は低下↓しているわけで、アニオンギャップAGが正常ということは、その分Cl–が増加↑しているということです。
この原因は主に下痢や、尿細管アシドーシスです。
消化管の分泌液はHCO3–を多く含む(腸管ではH+が血中へ吸収されるため)ので、下痢によってHCO3–が低下↓し、代謝性アシドーシスをまねきます。
AG正常代謝性アシドーシスの原因として、他には生理食塩水の大量輸液や、アセタゾラミドの投与などが挙げられます。
アニオンギャップ増加の代謝性アシドーシス
先ほどと同様、 代謝性アシドーシスなのでHCO3–は低下↓していますが、 アニオンギャップAGが増加するということは、 Cl–はその分増加していません。
つまり、Cl–の値は変わらないということです。
この原因は、大きく4種類に分けられます。
乳酸アシドーシス、ケトアシドーシス、腎不全、中毒の4つですね。
乳酸アシドーシスは、様々な原因のショックのときに見かけます。
ケトアシドーシスは、糖尿病性ケトアシドーシスDKA、アルコール性ケトアシドーシス、飢餓などで起こります。
腎不全はそのままですね。
中毒は、アスピリン(サリチル酸)、エチレングリコール、メタノールなどが代表格です。
簡単にまとめておきましょう。
アニオンギャップ正常の代謝性アシドーシス
AG正常=Clが増える
・下痢
・尿細管アシドーシス
・生理食塩水大量輸液
・アセタゾラミド
アニオンギャップ増加の代謝性アシドーシス
AG増加=Clが変わらない
・乳酸アシドーシス:ショックなど
・ケトアシドーシス:DKA、アルコール性、飢餓
・腎不全
・中毒:サリチル酸、エチレングリコール、メタノールなど
アニオンギャップAGで代謝性アシドーシスを見抜こう
先述の通り、たとえpHが正常でも、アルカレミアがあるときでも、アニオンギャップAG>12mEq/Lであれば、必ず代謝性アシドーシスが存在します。
例えばアシデミアになっておらずHCO3–も正常なのにAG>12mEq/Lである場合、代謝性アシドーシスに代謝性アルカローシスも合併していると考えましょう。
代謝性アシドーシスではHCO3–が低下しますが、偶然にも同じだけHCO3–が上昇している=代謝性アルカローシスが起きていると考えれば良いわけです。
(これは代償ではないのでご注意下さい。)
⑥補正HCO3–を計算(代謝性アルカローシスの合併を探す)
前章で、アニオンギャップAGが増加している場合、代謝性アシドーシスがあると判断する、という話をしました。
代謝性アシドーシスではHCO3–が減り、その分アニオンギャップが増えます。
この基準値(12mEq)から増えたアニオンギャップ量をΔAGと呼びます。
(Δは変化量を表す記号です。)
ここで仮に、このアニオンギャップ増加性代謝性アシドーシスをむりやり治した(=補正した)場合を考えます。
これが補正HCO3–です。
例えばHCO3–が減った分とアニオンギャップAGが増えた分の比が1:1であれば、そのままΔAG=HCO3–の補正分となります。
補正HCO3–>24(基準値の目安)の場合は、代謝性アルカローシスも同時に存在すると判断できます。
基準値から増えたAG
ΔAG=AG-12
ΔAG:HCO3–の減少分=1:1のとき
補正HCO3–= HCO3– +ΔAG
>24で代謝性アルカローシスも合併
なお、ΔAG:HCO3–の減少分=1:1なのは糖尿病性ケトアシドーシスなどの場合で、乳酸アシドーシスでは1:0.6くらいになるそうです。
それによって、補正 HCO3–の計算も変わります。
HCO3–の減少分:ΔAG=1:0.6のとき(乳酸アシドーシスなど)
補正HCO3–= HCO3– +0.6×ΔAG
>24で代謝性アルカローシスも合併
⑥はちょっと難しかったですね。
実際に動脈血液ガスをとった時に計算しながら、徐々に学んでいきましょう。
酸塩基平衡の評価のまとめ
最後に、酸塩基平衡の評価でやるべきことを6ステップでまとめます。
計算するとき参考しやすいよう、合わせて動脈血液ガスや代償反応の基準値も再掲しておきますね。
酸塩基平衡評価の6ステップ
<7.35なら「アシデミア」
>7.45なら「アルカレミア」
「アシデミア」でPaCO2↑(>45)なら呼吸性アシドーシス
HCO3–↓(<22)なら代謝性アシドーシス
「アルカレミア」でPaCO2↓(<35)なら呼吸性アルカローシス
HCO3–↑(>26)なら代謝性アルカローシス
代償は適切か?
(各代償反応の表を参照)
代償が適切でないときはSTEP④へ
代償が適切なときはSTEP⑤へ
一見代償が過剰に見えるときは、他の酸塩基平衡異常の合併を考える
AG=Na+-(Cl–+HCO3–)
AG>12なら代謝性アシドーシスと判断して、原因を探す
補正AG=AG+2.5×(4-血清アルブミン値)
補正HCO3–= HCO3– +ΔAG
動脈血液ガスの基準値
動脈血液ガス | 目安の数値 | 一般的な基準値の範囲 |
pH | 7.40 | 7.35~7.45 |
PaO2 | (なし) | 80~100 mmHg |
PaCO2 | 40 mmHg | 35~45 mmHg |
HCO3- | 24 mEq/L | 22~26 mEq/L |
AG | 12 mEq/L | 10~14 mEq/L |
代償性反応の基準値
原因 HCO3– 1mEq/Lの変化 | 代償性反応 PaCO2の反応 | ||
代謝性 | アシドーシス | 1mEq/L 低下↓ | 1.2mmHg↓ |
アルカローシス | 1mEq/L 上昇↑ | 0.7mmHg↑ | |
原因 PaCO2 10mmHgの変化 | 代償性反応 HCO3–の反応 | ||
呼吸性 | アシドーシス | 10mmHg 上昇↑ | 急性期 1mEq/L↑ 慢性期 3.5mEq/L↑ |
アルカローシス | 10mmHg 低下↓ | 急性期 2mEq/L↓ 慢性期 4mEq/L以上↓ | |
動脈血液ガスの読み方は以上です。
本記事を入り口に、もっと学びたい!という方は、是非田中竜馬先生の講義に足を運ぶか、名著「竜馬先生の血液ガス白熱講義150分」 を読んでみて下さい。
初学者が血液ガスについて学ぶ上で、これ以上分かりやすい本はないと思っています。
皆様が明日から血ガスを読むのが楽しみになりますように!
参考文献
- 田中竜馬, 「竜馬先生の血液ガス白熱講義150分」, 中外医学社, 2017
- 稲田英一(翻訳), 「ICUブック 第4版」, メディカルサイエンスインターナショナル, 2015
- Bloom BM, Grundlingh J, Bestwick JP, Harris T. The role of venous blood gas in the emergency department: a systematic review and meta-analysis. Eur J Emerg Med. 2014 Apr;21(2):81-8. doi: 10.1097/MEJ.0b013e32836437cf. PMID: 23903783.